本研究では、私が中学時代に経験した鑑賞授業や教育実習で行った鑑賞授業を通して教師の教材選択・提示方法に視点を絞り、生徒の興味・関心を引き付けるためにはどのような授業を今後行っていくべきかについてアンケート調査の結果を基に考察しました。
アンケート調査は宮崎大学教育文化学部3年142名、4年10名を対象として行いました。アンケート調査の内容についてはお手元のレジュメをご覧下さい。
調査の結果、授業の内容や方法の視点から次の7項目に分類することができました。例えば「歌ってくれた」「ピアノで弾いてくれた」など教師による演技や演奏などに関する記述は「教師の積極的なパフォーマンス」としました。また「絵を描いた」「自分たちで演奏した」など自分たちで行った活動に関する記述に関しては「主体的表現活動」としました。その他の項目に関してはお手元のレジュメをご覧下さい。
結果は次の通りです。印象に残っている楽曲として最も多く挙げられたのは「魔王」で計50名の学生が挙げていました。その中でも印象に残っている理由として特にストーリー性・背景を挙げている学生は51%を占めており、魔王の歌詞や内容に興味・関心をもっていたことが分かりました。このような歌唱鑑賞教材には生徒が歌詞の内容に注目できるような授業や、日本語の教材だけでなく、普段耳慣れない外国語の教材を取り入れた授業が適当だと考えられます。
次に多かった回答は「アイーダ」で計24名の学生が挙げていました。その中でも印象に残っている理由として特に視覚的・聴覚的インパクトが強かったと答えた学生は64%を占めており、音や映像の迫力に興味・関心をもっていたことが分かりました。技術が発達したことにより、多くの会社から開発・発売されている高性能なAV機器を活用した授業がこのようなタイプの教材には効果的だと考えられます。
また3番目に多かった回答は「モルダウ」で計11名の学生が挙げていました。その中でも印象に残っている理由として自分達で絵を描いたり歌ったりしたという活動と、視覚的・聴覚的のインパクトが強かったと答えた学生は共に21%を占めており、表現活動やメロディなどに興味・関心をもっていたことが分かりました。このようなタイプの楽曲を教材として取り扱う際には、表現活動と聴取活動のバランスが取れた授業を行うべきだと考えられます。その他の結果についてはお手元のレジュメをご覧下さい。
アンケートに対する回答を整理した結果、生徒が興味・関心をもつためには次の3つのような鑑賞授業が求められるのではないかと考えました。1つ目は「様々なジャンルの教材の音楽的要素に注目した主体的表現活動を行う鑑賞授業」、2つ目は「最新の教育機器を活用した鑑賞授業」、そして3つ目に「生演奏を聴かせる鑑賞授業」です。この中の1つ目と2つ目の鑑賞授業ついて、授業案を挙げながら述べていきます。
まず教育芸術社「中学生の音楽2・3上」に掲載されている「郷土の音楽」を鑑賞教材とし、ヤマハから発売されている学校用コンピュータ・ミュージック・システム「HELLO!MUSIC!for EDUCATION」を活用した鑑賞授業を提案します。これは画面の五線紙に音符やリズムを書き込んでいくタイプとコンピュータに歌わせ音程とリズムを確認しながら作っていくタイプがあり、初めてコンピュータに触れる生徒、楽譜の読み書きが出来ない生徒でも簡単に作詞・作曲ができるソフトです。
授業では日本民謡を鑑賞し様々な民謡があることを理解した後、生徒が考えた歌詞やメロディ、リズムをソフトに入力しオリジナルの民謡を作ります。私は琉球音階を使い沖縄民謡を作ってみました。ここでは先にメロディを入力してから、歌詞を入力しました。(操作・鑑賞)このようにコード進行データベースと400種類にも及ぶリズムパターンを組み合わせて伴奏を作成することもできます。完成した生徒の作品は楽譜化したり、CDに収録したりしてお互いに鑑賞し合うことができ、自分や友達の新たな一面を認め合うことにつながります。また、音楽が嫌いな生徒や自己表現が苦手な生徒にとってもコンピュータを活用しての作品づくりを通して、楽しみながら授業に参加することにより音楽に対する抵抗感を少しでもなくすことができると考えられます。このような活動を通して生徒には「また聴きたい」という興味・関心が高まることも考えられますので、最後にもう一度日本民謡を鑑賞し授業を終えます。
皆さんは、鑑賞授業でCDを聴いたり、ビデオやDVDを見たりする際、音楽室のAV機器の音質や画質が悪く聴きづらかったり、見づらかったという経験はないでしょうか。アンケート結果で<映像と音の迫力があった><プロジェクターで見た>という回答が比較的多かったことから、良い音楽を鑑賞するには良い音質・画質で鑑賞した方が印象に残ることが分かります。そこで教育出版「音楽のおくりもの2・3下」に掲載されているヴェルディ作曲「アイーダ」を鑑賞教材とし、Pioneerから発売されている学校教育用50V型プラズマ電子情報ボードEPD−C504を活用した鑑賞授業を提案します。この電子情報ボードは、幅約110cm、縦約62cmの大画面で、指や専用電子ペンで画面に文字を書き込んだり、消しゴムで消せたりするなど黒板感覚での活用が可能です。(写真提示)また、デジタルカメラ、DVDプレーヤーなどと接続できるので、授業の目的にあった映像情報を表示すれば視覚的・聴覚的インパクトのある効果的な授業を行うことができます。
授業では、この電子情報ボードにDVDプレーヤーを接続し鑑賞します。大画面で鑑賞することにより、生徒に与える音と映像のインパクトは大きなものとなることに加え、登場人物とその関係を専用電子ペンで画面に書き込むことにより、視覚的に人物関係を捉えることができます。またOHCを接続し使用されている楽器の写真を見たり、その楽器を所有する学校や文化施設などと遠隔コラボレーションしたりすることで、楽器についても学習することができます。
このように最新の教育機器を使用し、高音質・高画質で鑑賞するということは、生徒が音楽鑑賞の楽しさを育むために重要なことです。またこの電子情報ボードのように画像に直接書き込みができる機器を活用すれば、一目で内容を理解できるうえに、生徒が常に画面に注目していることで教師は生徒の表情を見ながら授業を進めることもできます。
本研究を通して、鑑賞授業で最も重要なことは生徒と音楽を近付けることではないかと考えるようになりました。以前私が鑑賞授業について質問した際「授業で聴く音楽は堅苦しくて嫌い」と答えた生徒がいました。鑑賞授業で取り扱う音楽が生徒にとって身近な存在であるなら、きっとそのように感じている生徒も鑑賞授業に興味をもつことができるのではないでしょうか。以上で発表を終わります。ご静聴ありがとうございました。