陽子線を照射した太陽電池材料の劣化特性評価(CuInSe2

Proton irradiated solar cell material CuInSe2

次世代カルコパイライト太陽電池半導体の劣化機構


現在の太陽伝体の主流は、シリコンやGaAsであることは良く知られている。しかしここに掲げるCuInSe2などのカルコパイライト系半導体は、次の大きな三つの理由で次世代太陽電池材料と大きな期待が寄せられている。

第一は エネルギーギャップの大きさを組成を変えることで制御できることである。このエネルギーギャップの大きさを太陽光スペクトルにマッチさせる事ができれば、効率が飛躍的に向上する。
第二は 太陽光スペクトルに適合する波長範囲での吸収係数が非常に大きく、10cm-1にも達することである。これは、シリコンより3桁、GaAsより1桁大きく、高い効率が期待される。
第三は これがもっとも大きな理由であるが、放射線に対する劣化が極めて小さいことである。このことは、太陽電池をが宇宙用太陽電池として使用する場合に必要とされる特徴である。現在のシリコンなどでは宇宙へ持って行くたびに交換しなければならないなど不便さがあった。


我々は既に、この系の主流であるCuGaInSe2(以下CIGSと呼ぶ)について、室温以下のPPTS測定を行い、禁制帯に由来する信号を明確に分離できた。更に、放射線照射によって生成される構成原子空孔などによる電子の非輻射遷移についても多くの研究成果を公表した。そして、通常の測定方法では困難であった陽子線照射の影響を物性論的立場から明確にした。

その成果の概要は図示す通りである。0.8-0.9eVの範囲に明確に観測される信号が、陽子線照射の結果として顕著に現れた信号である。この信号とSe空孔複合体の関係などが明らかにされた。なお、このピークについては更に室温における回復現象も観測された。

これまで光学的測定においては、室温においてこの様な照射の影響が明らかになった例はなく、我々のPPTS手法が極めて有効な実験手法であると事を示している。特に吸収スペクトルとしては、この様な照射の効果が禁制帯以下のエネルギー範囲において測定されたのは初めてである。従来の光吸収測定法ではこの様なきれいなスペクトルは得られておらず、明確な照射効果を得ることできていない。また、もっとも感度の良い実験法であるとされているフォトルミネセンス法では極低温での実験報告はあるが、ピーク位置のエネルギーを示唆するだけで、何れも状態密度に関する情報を反映していない。また、電気的性質の温度依存性に照射の影響は見られるものの、実験結果の計算手法の複雑さから、同定が困難であった。


(米国物理学会誌APL、欧州材料学会シンポジウムEMRS2004などで発表)

EMRS2004では、ポスター発表最優秀賞を受賞した(受賞者T.Ikari)