光熱変換分光法
Piezoelectric Photothermal Spectroscopy (PPTS)
近年の半導体電子デバイスの高機能化、高効率化の背景には、ナノテクノロジーを駆使した半導体量子構造作製技術の急速な発展に負うところが大きい。従ってこれら素子の製造プロセス中に、或いはデバイスとして作製された後も、その物性及び性能を適切に評価する方法の開発が必要である。
現在薄膜に応用されている電気的光学的物性評価法は、従来のバルクについての評価法をそのまま応用した手法が主であり、超薄膜など材料が量子力学的構造になればなるほど、より精度の高い新たな観点からの評価技術が必要になっている。また、これらを量子構造光電子デバイスとして応用する場合には、素子の劣化を大きく支配するものは電子の非輻射再結合であるため、これを測定し、そのメカニズムを解明することはデバイスの性能を向上させるのに不可欠である。
我々は半導体中に光励起された電子の非輻射再結合を感度よく検出できる方法を開発し、バルク半導体の極微量不純物欠陥準位を測定している。更に、その電子遷移機構や大きな格子緩和による電子状態の相変態(格子欠陥を含む準安定状態)を新たな観点から研究している。また、表面や界面に必然的に存在する電場の影響によって光生成キャリアが制御され、光起電力効果と共に非輻射遷移が大きな信号発生源となっていることを突き止めた。これらの知見から、PPTS法が更にその信号発生機構を詳しく解析することによって、再結合速度や拡散距離など、キャリア輸送機構の解明に有効であると考えている。
これまでの研究で得られたPPTS法(圧電素子光熱分光法、Piezoelectric Photothermal Spectroscopy)の特徴は以下の通りである。
- 格子欠陥準位などを介する電子遷移は強い電子格子相互作用のため、非輻射遷移の確率が高い。PPTS法はこの非輻射電子遷移を直接観測できる実験手法である。
- 入射光と透過光の比から相対測定する吸収係数法とは異なり、このPPTS法は吸収成分を直接測定できる絶対測定法であるため、測定感度を非常に高くできる。
- 多結晶試料や結晶粒界の多い試料でも散乱光の影響を考えなくて良いため、真の吸収係数スペクトルを測定することが出来る。
LD(レーザーダイオード)やLED(発光ダイオード)の発光効率を測定するための重要な実験手法として光吸収スペクトル測定法、光起電力測定法があるが、超薄膜などに対しては測定が困難であった。他にも一般的にはフォトルミネセンス(PL)法や、フォトリフレクタンス(PR)法があるが何れも吸収の閥値はわかるものの、スペクトルの形状、即ち電子状態密度はわからなかった。(概念を図に示す。)