破壊力学に基づく浸炭歯車

 歯元き裂の発生と進展に注目して,浸炭歯車におけるき裂の進展特性を実験と解析によって明らかにした.また,得られたき裂進展特性と歯の曲げ疲労実験結果を用いて,疲労実験開始時の表面初期き裂長さを推定した.その初期き裂長さは疲労強度に及ぼす表面状態の影響を定量的に表すことができることから,初期き裂を用いた歯車の曲げ疲労強度を精密に評価する方法を提案した.さらに,様々な表面処理を施した歯車にFIB(イオン加工装置)で歯元に微小切欠き(幅10mm,長さ500mm,深さ数十mm)を導入して,表面状態と切欠き深さの関係を調べ,微小切欠き深さを初期き裂長さとして,熱処理及び表面処理方法と表面初期き裂長さとの関係を明らかにしている.本研究によって高強度歯車の強度設計ならびに品質管理のための新しい設計基準を確立することができると考えている.

表面温度を考慮した接触疲労強度評価に関する研究

トラクションドライブの性能及び疲労強度に関する研究

 トラクションドライブの強度設計を行うためには転動体の損傷形態とそれに応じた疲労強度を把握することは不可欠である.転動体の疲労強度は材質,表面状況,潤滑状況の他に滑り率によって大きく変わることが知られている.そこで,本研究では,トラクションドライブの実用状況を考慮して,押し付け力,滑り率,スキュー角を変化させた疲労試験と疲労損傷面の観察を行うことにより,トラクションドライブ要素の損傷形態および表面損傷の発生に及ぼす使用状況の影響を明らかにし,トラクションドライブ要素の接触疲労強度評価の手法を検討した.


非対称歯形を持つ歯車の開発

 実用動力伝達用歯車装置では正逆転の両者が必ずしも必要とは限らないことと,逆転がある場合でもその負荷が正転時と比べて小さいことが多いことを考慮し,非対称歯形を用いることによる歯車の固有曲げ疲労強度の向上を図ることを目的としている.現段階では,歯形の設計,歯車の製作と曲げ疲労実験を行っており,非対称歯形を持つ歯車の曲げ疲労強度が通常の歯車と比べて約20%向上した結果が得られている.今後は非対称歯形を持つ歯車の製造及び適用領域について研究する予定である.
 転がり・滑り接触面の表面温度上昇と接触疲労寿命との関係に注目し,表面温度を用いた転がり・滑り接触疲労強度評価の確立を目的としている.そこで,本報では二円筒実験での接触面の表面温度の計測結果に基づき,表面温度推定法とそれの歯車への適用可能性を検討した.その結果,円筒の表面温度は荷重と滑り速度の増加に伴って上昇していることが確認され,表面温度に及ぼす供給潤滑油温の影響を定量的に示した.また,潤滑油膜厚さと摩擦係数の変化を考慮して転がり・滑り接触面の表面温度推定式を提案するとともに,これまでに公表されている各種円筒及び歯車を用いた温度測定結果に適用し,本推定式の汎用性が確認された.