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河野研究室 KONO Laboratory
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研究内容 (Research)

日本において、水産増養殖業は非常に重要な産業の一つです。

拡大します、よろしいですか?生産される魚類の中でも、特にブリやマグロなどの青背の魚には、多価不飽和脂肪酸などの機能性成分が多く含まれており、生活習慣病の予防や改善に有効であることが知られています。このように、食品として非常に価値の高い魚類を、いかに効率的かつ安全に生産するかが、水産増養殖業における一つの大きな課題です。

この中でも魚病問題は深刻で、生産量の低下/経済的損失に加え、対処療法として投与される薬剤の自然界に及ぼす影響(環境負荷)など、様々な問題を抱えています。また、魚類の免疫応答(免疫システム)はよく理解されていないため、病害対策を講じる上で必要な知見が十分でない状況にあります。

これまで私は、これらの知見を増やすために、養殖対象魚からメダカに至るまで、様々な魚種より生体防御関連遺伝子を分離し、その構造や発現動態の解析を中心に研究を進めてきました。これによって、魚類の免疫応答の基本“分子の存在”は見えてきましたが、機能面についての知見は未だに乏しい状況です。

現在は、これまでに分離した免疫関連因子の中でも、哺乳類において特に免疫応答の方向性を左右することが知られる生理活性物質:サイトカインに着目し、@魚類におけるその機能の解析、さらに当該分子を用いたA健康診断法、およびB免疫増強技術の確立を目的に研究を進めています。本技術は、効率的で安全・安心な魚類の持続的養殖技術の確立に一助を提供するとともに、枯渇しつつある水産資源の保護にも寄与できるものと考えています。


詳細
@ 魚類ヘルパーT細胞の分化誘導機構の解明 (免疫系の進化)

サイトカインは、細胞間の情報伝達を担う一群のタンパク質です。特に免疫系を刺激するシグナル因子としての働きは重要で、抗原提示を受けたナイーブヘルパーT細胞(Th0細胞)をTh1細胞、Th2細胞、Th17細胞などのエフェクター細胞に分化させます。続いて、各エフェクター細胞は特異的なサイトカイン産生することで、必要とされる免疫応答を誘導します。Th1細胞は抗細菌(細胞内寄生)免疫や抗ウイルス免疫、Th2細胞は抗寄生虫免疫やアレルギー応答、Th1細胞は抗細菌(細胞外増殖)免疫や抗真菌免疫を誘導することが哺乳類において知られています。しかしながら、魚類において、サイトカインによる免疫応答の方向付けが存在するかは不明です。当研究室では、魚類におけるTh細胞の免疫調節機構を調べることで、脊椎動物における免疫系の進化を探るべく研究を行っています。

A サイトカインをマーカーとした健康診断法の確立

サイトカインをバイオマーカーとして利用し、1.遺伝子レベル、2.タンパク質レベル、3.細胞レベルでの魚病診断法の確立を試みています。

1. 遺伝子レベル: マルチプレックス遺伝子発現定量解析法を利用し、病原体感染時のサイトカイン遺伝子の発現プロ  ファイルを解析
2. タンパク質レベル: 抗サイトカイン抗体を用いたELISAにより、血または臓器中のサイトカイン濃度を測定
3. 細胞レベル: フローサイトメーターを利用し、Th細胞ポピュレーションの変化と病態の関係を解析

B 生体防御関連因子を利用した免疫増強技術の確立

Aの結果から、実際の病原体感染ステージにおいて、どのような免疫応答が誘起され、また活性化されていくのかを予測し、抗病性の増強に有用なサイトカインを選択します。続いて、タンパク質レベルまたは遺伝子レベルで、細胞または魚体内にサイトカインを導入し、感染症に対する抵抗性を検討します。将来的には、ワクチンのアジュバントとしての利用を考慮し研究を行っています。

C 生理活性物質の探索ならびに機能解析

1. 免疫応答に関与する生体防御関連因子、2. 摂食を制御するペプチド、3. サーカディアンリズムの調節に関わる因子などの分離・同定・機能解析を行っています。魚類の生理機構を調節する分子を探索し機能を明らかにすることで、水産養殖分野における疾病対策・嗜好性の高い飼料の開発等に貢献したいと考えています。