研究テーマの概要

天体の内部構造は, 古くは1862年, 対流平衡の概念を導入した Kelvin の研究に端を発し, 20世紀初頭までの Lane, Ritter, Emden らによる球対称 ポリトロピック 等温ガス球の定常問題に対する理論的研究, 続く Chandrasekhar ら多くの天体物理学者らの貢献によって, かつて未解明であった多くの現象が説明されるに到っています。

今日, 観測・実験・計算機技術の飛躍的進歩により, 天体物理や計算機科学の枠内で星や銀河の内部構造解明を目的とする研究がさらなる発展を遂げている一方, その数学的な解析は充分とは言えません。様々な現象が観測によって明るみとなるに伴い, 新たな現象を包含・記述し得る方程式系に対しての新しい数学的解析手法が必要となり, 解析に当たっては現象の本質的な要因を見極めることが不可欠と言えます。
私はこのような観点から, 天文現象に見出せるいくつかの本質的要素を数学的に厳密に定式化し, 星や銀河内部の (既存の研究に比して) より現実的な現象を記述し得るモデルに対する数学理論の構築を目指し, 研究を行っています。

現研究では,媒質を 圧縮性 粘性 かつ 熱伝導性 の流体 と仮定し,主にその空間1次元モデル,並びに空間3次元球対称モデルの 自由境界 問題 (形状決定問題) に取り組んでいます。空間変数が一変数である圧縮性粘性 (熱伝導性) 流体モデルの研究には長い歴史があり,固定境界・外力場なしなどに代表される簡素な条件の下ではその可解性に関して充分と言える結果が得られていますが,このような仮定の下にあるモデルはやはり現実に即しているとは言い難く,より広範な物理現象を記述できるモデルの提唱,及びそれに対しての数学解析による結果が待たれていると言えます。

キーワード:  流体力学 ・ Navier-Stokes 方程式 ・ 自由境界問題 ・ 自己重力 ・ 熱輻射 ・ 核融合反応


研究成果

慶應義塾大学谷温之教授と共同で, 自己重力作用下にある熱輻射的 (熱輻射による圧力 とその内部エネルギーへの寄与が Stefan-Boltzmann の法則 に従うようなそれ) かつ化学的に活性な (化学反応速度が Arrhenius の法則 に従うようなそれ) ガスからなる流体星モデルの空間1次元自由境界問題に取り組みました。この研究により, 初期データが滑らかな 関数空間 に属するならば, その大きさに関わらず解が時間大域的に一意に (同じく滑らかな関数空間に) 存在し, 流体星の形状が任意の時間まで決定されうることを証明しました。

さらに, この研究を発展させ, 中心に剛体の球核を持つ空間3次元球対称流体星モデルに対しても, 空間1次元モデルの場合と同様の結果を得ることに成功しました。

他方, 自己重力作用下にある空間1次元 理想気体 モデルに対して, 初期値の大きさに制限を設ける事無く, 古典解の時間一様な a priori 評価 を得ることに成功しました。これにより本モデル方程式に対して真に時間無限大までの (爆発しない) 古典解の構成が可能であることを示し, 同時に時間大域解が対応する 定常問題の定常解 へと時間収束することを証明しました。

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