English page is here.
水産科学講座トップページ岩槻 研究室トップページ > 研究活動など > 温暖化の影響で見かけるようになった魚類
研究内容

2009/1/23

温暖化の影響で日向灘でもみかけるようになった魚類達がいる? 本当ですか?

岩槻幸雄


地球温暖化問題は、人類の産業革命以降の二酸化炭素の急速な排出量の増加によって引き起こされる事実とされている。京都議定書により先進国と発展途上国の間で排出権等の問題がニュースや新聞等で賑わしている。一方、これによる地球、生物、人間への負の影響が大きく取りざたされているが、正(プラス)の影響、例えば二酸化炭素を吸収し、光合成が活発になり、一次生産を増やす植物が地球上で大きく繁茂するというようなことも、少数ながら報告されている。

海洋生物の魚類において温帯域である我が国でみてみると、おそらく、魚類相の大きく変わる渡瀬線よりすぐ北である九州南端、四国南端、紀伊半島、東海地方、関東房総半島等の暖流である黒潮が北上する本州太平洋岸や黒潮の分流とされる対馬暖流が北上する日本海の新潟付近ぐらいがやはり影響を受けやすいと考えられる。しかし、一体どのような魚種変化、生態系、及び我々が利用する重要な水産資源に影響があるのかについては、まだ十分わかっていないのが現状である。というか、水産学者や魚類学者も誰も真剣に検討していないというのが、真相であろう。簡単に事実や証拠を掴むのは容易ではないと研究者は十分理解しているから、適当なことは簡単にはいえないというのが別の本音であろう。

日向灘の魚類を、約30年弱みてきたが、やはり、魚を愛する私としては、いなくなるとか、魚類相が変わるとか、資源が枯渇するとか聞くと心が穏やかではいられない。宮崎県の県魚ともいえる下記のアカメもそうである。アカメは温暖化というより、日本の河口域という狭い生息空間にすむため、河口生態系の頂点に立つアカメは、草原のライオンのようなもので、その狭い生息空間が急激な変化により、この巨大魚であるアカメを養う環境が無くなって来たともいえる。決してアカメの場合、人間自身よるアカメへの乱獲ではなく、人間活動による河口域の生息環境の大きな変化のために、彼らはかろうじて生きているものと思われる。


宮崎県耳川河口産アカメ 鴨川史郎氏釣獲(山出潤一郎氏経由で写真拝受) 全長約120 cm (絞めた後117 cm) 眼が赤く光っています!

フエダイ科は、魚らしい魚で、Iwatsuki et al.(1994)により、日向灘では?属何種報告され、基本的にアメフエダイ亜科やヒメダイ亜科の魚が殆ど分布しないことを報告している。

汽水域や沿岸岩礁性の魚類では、この時点まで、ベンガルフエダイやキンセンフエダイは全く宮崎県では見かけなかった。Iwatsuki et al. (1999)では、奄美大島までベンガルフエダイが生息するのを確かめていたが、日向灘では一切みかけなかった。しかし、2000年を超える頃から取れだし、全長25cm位の大型のものが目井津漁協で上がっているのを確認していた。同様に日本では西表島周辺のみで記録されているミナミフエダイLutjanus ehrenbergiiも稚魚のみであるが、宮崎の河口やタイドプールで採集された。沖縄本島では、ミナミフエダイは見かけてことがなく、沖縄や奄美を乗り越えていきなり稚魚のみであるが、日向灘に出現した。しかし、大型のものは一切見かけないので、冬期の水温低下に耐えられず、死滅回遊であると判断している。



ベンガルフエダイ Lutjanus bengalensis 門川産  泉 光撮影 キンセンフエダイLutjanus lutjanus 目井津産 泉 光撮影      

上述3種を考えてみると、ベンガルフエダイとキンセンフエダイは元々インド西部太平洋に広く沿岸岩礁周辺に分布する魚である。後者は若干砂地や泥地にもいますが、ミナミフエダイは、どちらかといえば汽水性が強い。前者2種はおそらく、従来、日向灘に来遊はしていたが、約2度弱冬期の最低水温が高くなっていることから、日向灘で越冬を果たし、ベンガルフエダイは大型のものがみられるので、産卵している可能性が有るが、キンセンフエダイは越冬を果たして、今回ある程度のサイズが見られたことから、定着しつつある可能性があると判断している。ミナミフエダイは、まだ、その段階ではないものと考えられ、分布北上へ拡大メカニズムは、幾つかの段階を経て、定着分布していくものと判断される。おそらく、他の科の魚類でも魚種毎の適応や習性が違うが、ある段階を経て北上進出をしてくるものと考えられる。

文献
  • Iwatsuki, Y., H. Senou and T. Suzuki. 1989. A record of the lutjanid fish, Lutjanus ehrenbergii, from Japan with reference to its related species
  • Iwatsuki, Y., A. Nakamura, K. Okabe, K. Hirano and M. Akazaki. 1992.3. Lutjanid and caesionid fishes in the superfamily Lutjanoidea from Miyazaki Prefecture, southern Japan. Bull. Fac. Agri. Miyazaki Univ., 38(2): 91-98.
  • Iwatsuki, Y., T. Yoshino & K. Shimada.1999.8. Record of a lutjanid fish, Lutjanus bengalensis (Perciformes: Lutjanifae) from the western Pacific Ichthyol. Res., 46(3): 314-317.


 
 
 
 
宮崎大学農学部 宮崎大学農学部生物環境科学科 水産科学講座