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研究内容

2012/12/10

ヤマメ(エノハ•マダラ)の南限付近と考慮される南九州には天然ヤマメ個体群といえるものは今でもいるの?


何処の河川でも養殖ものが放流されてしまい、その後交雑してしまった可能性が高いところが多く、間違いなく天然のみと言えるところは中々無いでしょう。    

....というのが普通考える帰結である。でも何処かの滝の上や、源流部、あるいは人が入れない源頭なんかに残っていないかな? と考えるのは釣り人のロマンである。地図をみて、ここには天然ものがいるかも知れないと思うのは、渓流師(たにし)のロマンと釣り欲をかき立てられるだろう。

しかし、大部分の河川は放流されているが、過去に放流実績も無いところも有り、そこにいるのは天然かも(笑)、あるいは昔の古老に聞いていた模様や色彩が似るので、個人の自主放流の噂があったとしても、交雑してるかも知れないが、天然に近いはずなどと考えてしまう(笑)。

天然だという根拠がないので、堂々巡りである。そもそも、イワナの南限の個体群のキリクチ(奈良・和歌山)生息地の記事や、調査や研究例の記事や話は聞くが、日本の南限ヤマメの調査した具体的な研究の話は聞いたことがない。誰も真面目に調査研究してこなかったと思われる。

その理由は、戦後の高度経済成長の時期には、道路が上流部まで開通し、あちこちの河川で釣り客の増加や環境破壊でヤマメやアマゴは激減した。人工養殖が当時急がれており、養殖が可能となった昭和40年代頃にはあちこちの公的な養殖場(水産庁の日光支所、東京都の内水面試験場、岐阜県水産試験場、滋賀県醒ヶ井養殖場)などで先駆的に試みられ、また民間の養殖業者も進んで試みて、お互い種苗の融通や移動•移植や放流が盛んに国内で試みられていた。そのため自分たちの養殖しているヤマメやアマゴは一体何処の系統なのか、難しい状況になってしまったことは想像に難くない。また当時、現在のような遺伝解析によりDNAの解析行うなどというようなことは可能でなかった。

ヤマメ生息地の川にアマゴを放流したり、現在のような保全や遺伝の知識も十分でなかった時代なので、レジャーとしての渓流釣りは、釣れれば良しとする風潮が強く、保全のため遺伝的に地場の天然物を育てるという発想は希薄であったろう。しかし一部の人は、地場のヤマメやアマゴにこだわって養殖してきた所や人も多いと聞く。いずれにせよ日本全体の各地の河川のヤマメやアマゴの遺伝学的な特徴が、イワナよりも現在把握できていないのが実情である。

唯一、佐藤成史氏が「瀬戸際の魚たち」という本の中で南限ヤマメにについて若干述べている。佐藤(1998)によれば、九州の南限のヤマメについての研究報告はないと述べ、鹿児島県川内川水系霧島川と宮崎県日南市にある酒谷川源流部を挙げ、両県の水産試験場に確認して、緯度から南限は宮崎県の酒谷川であったろうと述べている。さらにここ数年の放流実績こそないが過去に放流があったが、ヤマメが南限で生息できる環境がある肝属川水系串良川上流の高隅川での釣行調査を行って1尾釣ったことを記した。更にかって放流されたこともある大隅半島の南端に近い辺境の小河川(辺塚川)でも調査を実施し、そこは絶望的様相でヤマメの住める川ではないと記している。

私どもの研究室では、九州や四国のイワナと共にヤマメの南限個体群が棲息していた河川の探索と九州のヤマメの遺伝学特性を明らかにする目的で、調査を行っている。最近既述された肝属川水系の南部の高山川水系上流部に自然分布かもしれないヤマメがいたとする噂を聞いたが、一部地元の有志により30年前に放流されたという事実を掴んで少々落胆した。ヤマメの住めそうな川は他にもあるので調べてみる価値はまだ十分にあるだろう。更に確実にいたと思われ、現在でも繁殖個体がみられる河川を突き止めたい。その様なところが本当にまだ残っているのか疑問だが、今後のためどこかで南限ヤマメの個体群調査の結果や記録を残しておくことは重要なことであろう。

自然分布のヤマメの南限個体群は、はたして南九州の何処だろうか? 九州•四国の自然分布の可能性のあるイワナの調査を私どもの研究室では平行して実施しているが、同様にこの素朴な南限個体群のヤマメのいた所は一体何処だったのか、という疑問が浮かぶ。鹿児島県川内川水系霧島川と宮崎県日南市にある酒谷川より南側に位置するところで昔からヤマメ(マダラ•エノハ)がいたと思われるところがあれば、遺伝学的な調査により調べてみる価値がある。ぜひご連絡ください。

特に実際に少数いたかもしれないが、その後個体数が少なくなり、人為的に他河川のヤマメが放流されてしまって、今や交雑した河川個体群の可能性のある所もあるでしょう。しかし、放流されたもののと即断して決めないで、その河川特有の遺伝学的特徴を持ったものもまだ少数が、例えば源流部やある谷のみに残っている可能性も十分あります。実際何処の河川上流でも概ね複数の遺伝学的特徴を持ったものがみられます。井堰や滝、あるいは支流を境に遺伝学的に明らかに異なる、遺伝系統の違うヤマメがいることも多いです。

脂びれ(ハサミで切除)や尾鰭、臀鰭の一部(5mmx5mm)もあればすぐ分析できます。協力してもらえる人は、下記の通りです.ご連絡していただけるとありがたいです。

連絡先: 
〒889-2192 〒889-2192 宮崎市学園木花台西1-1
宮崎大学農学部海洋生物環境学科         岩 槻 幸 雄(いわつきゆきお)
TEL 0985-58-7222; FAX 0985-58-2884 E-mail: yuk@cc.miyazaki-u.ac.jp

文献
  • 佐藤成史 1998. 瀬戸際の魚たち 釣り人社 東京 285 pp. 

 
 
 
 
宮崎大学農学部 宮崎大学農学部生物環境科学科 水産科学講座