宮崎大学 農学部 応用生物科学科

環境微生物学研究室

 

研究内容

①微生物燃料電池

微生物燃料電池とは?

近年の産業化、人口増加に伴う、エネルギー問題、環境問題は深刻化の一途を辿っています。再生可能エネルギーを適切に利用することで環境にやさしく持続的なエネルギー生産が可能です。再生可能エネルギーを利用する発電技術の一つ微生物燃料電池は、有機性廃棄物処理と発電を同時に行うことができる優れた技術です。

我々ヒトは食物を食べ、エネルギーを得る過程で生産される電子を酸素に渡して生きています。地球には酸素のない環境、つまり、嫌気的環境がいたるところに広がっています。土の中、河川、海の底などです。そのような嫌気的環境においても極めて多種多様な微生物が生活しています。それら嫌気性微生物も我々と同様に有機物を食べてエネルギーをつくりますが、その過程で生じた電子を酸素以外の物質に伝えることができます。”電子受容体”には、硫酸、硫黄、硝酸、鉄など、さまざまな物質を利用する嫌気性微生物が存在します。中でも不溶性の酸化鉄などの金属(の塊)に電子を伝達することができる微生物種が存在し、それらは鉄還元菌と呼ばれています。 鉄還元菌は細胞の内側で作られた電子を細胞膜を通じて外側に伝えることができます。 酸化鉄の代わりに電極を電子受容体として与えてやると、電極にも電子を伝えることができるため、電池となります(微生物燃料電池で発電に関わる菌は”発電菌”などと呼ばれます)。 微生物燃料電池を用いれば、微生物の”食べ物”である酢酸をはじめ様々な有機物を”燃料”として利用することができます。微生物が電子供与体として利用できる有機化合物は極めて多様で あり、有機性廃棄物であっても燃料として発電することが可能です。有機性廃棄物を燃料として用いた場合には、その処理と発電を同時に行うことができ、さらに余剰汚泥の抑制もできるため、エコな有機性廃棄物処理技術として注目を集めています。

微生物燃料電池の概念そのものは100年以上も前から知られていましたが、その研究が本格的に開始されたのは今世紀に入ってからです。現在急激にその性能が向上しており、年々論文による報告数が増えています。しかし、その発電メカニズムについてはまだ多くの謎が残っています。より実用的で汎用な微生物燃料電池電池の開発には基礎研究は非常に重要です。本研究室では、微生物燃料電池の発電メカニズムの解明を目標として、微生物と電極の相互作用に着目した分子・原子レベルの基礎研究を行っています。 また、微生物燃料電池を用いた未利用バイオマスの有効利用法についても研究を行っており、広く普及し得る技術の開発を目指しています。

畜産廃棄物を燃料として微生物燃料電池

宮崎県は、全国的にも有名な畜産県です。牛をはじめ、豚、鶏など多くの畜産動物がおり、その廃棄物も多く発生します。我々の研究室では、畜産廃棄物の処理と発電を同時に行うことができる微生物燃料電池を開発しています。どのような形の電池で、どのような条件で運転すれば効率よく処理と発電が行えるのかを研究しています。

発電菌による発電のメカニズム解明

微生物燃料電池では発電菌の働きが必須です。しかし、発電菌がなぜ発電できるのか、そのメカニズムには多くの謎が残されています。発電菌について、発電能力の謎を解明することは、微生物燃料電池の性能向上に向けて有意義であることはもちろん、学術的にも極めて興味深いテーマです。本研究室では、微生物燃料電池で最も高い発電能力を持つGeobacter sulfurreducensの発電能力に着目し、発電に必須な遺伝子の全容解明を試みています。特に、本研究室はGeobacter sulfurreducensの純粋培養系での微生物燃料電池(その性能評価)を用いた研究、特定遺伝子の破壊(破壊株の作製)、ゲノム解析などを得意としています。

②環境汚染物質分解微生物

生物を用いた環境汚染物質除去

人類が排出する汚染物質によって、地球環境が悪化しています。問題となる汚染物質が発生しないよう努力することはもちろん重要ですが、環境汚染物質を排出せずに人類の産業活動を進めることは現状では不可能です。発生してしまう汚染物質はしかるべき除去を行わなければ深刻な環境問題に発展することになり、人類の生活場所を自ら苦しめる結果につながります。環境汚染物質の除去には物理化学的手法と生物学的手法があり、後者では微生物を用いた技術が進んでいます。”バイオレメディエーション”と呼ばれるこの技術の中には微生物による汚染物質の分解能力によるものがあります。

環境汚染物質は極めて多様ですが、我々は芳香環を持つ化合物の微生物分解について研究を行ってきました。好気性微生物(酸素を使った呼吸を行う微生物)はその取扱やすさもあり、古くから研究が行われており、問題となる芳香族化合物の微生物分解に関する知見は多く蓄積しています。また、実用化されているバイオレメディーション技術も好気的な微生物分解に頼ったものが多いのが現状です。その一方で、嫌気的な(酸素がない状態)微生物分解については比較的研究例が少なく、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニルなど主要な芳香族化合物についての研究例以外にはほとんど謎だらけです。地球環境中において、地下や海底など嫌気的な環境は広く広がっており、環境汚染も嫌気的環境に及ぶことも多いため、バイオレメディエーションへの応用という観点からも重要な研究テーマと言えます。

当研究室では、芳香族化合物のうち、特に多環芳香族化合物の嫌気的微生物分解について研究を進めています。嫌気性分解菌の単離を行い、その分解菌が持つ嫌気的な分解代謝経路の解明と分解系遺伝子の探索を行っています。これまでに嫌気性芳香族化合物分解に関する研究報告例は極めて少ないため、どのような微生物がどのような遺伝子・酵素を使って多環芳香族化合物を嫌気的に分解しているのかは全く未解明の状態です。新しい機能を持つ遺伝子酵素が明らかになる可能性も秘めており、面白い発見があることを期待しながら研究を進めています。