子牛の行動解析による健康管理
子牛の行動解析による健康管理
カメラを用いた非接触の子牛の行動解析により、疾病の早期発見と適切な治療介入を支援する研究です。画像処理技術とAIを活用することで、子牛の健康状態をリアルタイムでモニタリングし、異常行動を検知します。
実験背景・目的
畜産業界の課題として、子牛は免疫が未熟で病気になりやすく、子牛の健康状態を常に把握することは重要です。また、畜産農家の経営の大規模化が進んでおり、従業員の負担が増加しています。
下のグラフが示すように、1戸当たりの飼養頭数は年々増加傾向にあり、平成26年の75.0頭から令和5年には107.6頭まで増加しています。この大規模化に伴い、個々の子牛の健康状態を把握することが難しくなっています。

これらの課題を解決するため、カメラを用いた非接触の子牛の行動解析を行うシステムの構築を目指しています。このシステムにより、子牛の異常の早期発見の補助や、子牛にストレスを与えず健康状態の把握が可能となります。

実験環境
農工連携のもと、宮崎大学住吉フィールドから収集したデータを使用して実験を行いました。子牛が1頭ずつ分かれて飼育されているペンの天井部分(約3m上)にD455カメラを設置し、子牛の行動を24時間連続で記録しています。
この設置方法により、子牛の全身が視野に入り、起立・座位などの姿勢変化や行動パターンを正確に捉えることができます。また、複数のペンにカメラを設置することで、異なる個体の行動データを同時に収集し、比較分析することも可能です。

実験結果
機械学習や画像処理を用いることで、起立か座っているかの判定が高い精度で行えました。上の混同行列が示すように、起立状態の検出では5972枚の正解データに対して5972枚を正しく判定し、座っている状態の検出では20055枚を正しく判定することができました。
この高精度な姿勢検出を基に、子牛の行動パターン(起立・座位の頻度や持続時間など)を分析することで、健康状態の変化や異常を早期に検知することが可能となります。特に、中耳炎や肺炎などの一般的な子牛の疾病に関しては、発症の24〜48時間前から行動パターンに変化が現れることが確認されました。
社会的意義と今後の展望
本研究は、カメラとAIを活用することで畜産農家の負担を軽減し、SDGsの目標2(飢餓をゼロに)、目標8(働きがいも経済成長も)、目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう)に貢献することを目指しています。
今後の展望として、以下の取り組みを計画しています:
- より多様な疾病に対応できるよう、データセットの拡充とモデルの改良
- サーモグラフィーカメラとの併用による体温モニタリングの実装
- 音声分析による咳・呼吸音の検出機能の追加
- エッジコンピューティング技術を活用したリアルタイム処理システムの構築
- クラウドシステムとの連携による大規模牧場向けの統合管理システムの開発
これらの取り組みにより、日本の畜産業の生産性向上と持続可能な発展に貢献することを目指しています。