乳牛の分娩・難産兆候推定システム

研究背景・目的

研究背景・目的

分娩死亡事故による損失及び酪農の過重な労働負担問題と農業従事者不足は、日本の農業において深刻な課題となっています。分娩死亡事故による経済的損失は約100万円とされており、最も多い事故が難産です。適切な介助をおこなうために昼夜を問わない監視が必要ですが、これが酪農家の大きな負担となっています。

特に酪農は深刻化しており、令和4年時点で年間平均労働時間が2,183時間となっています。また、農業における経営離脱及び新規就農状況は深刻なものであり、新規就農者が不足していることから、毎年一定数の経営離脱が続いています。

本研究では、画像処理技術やAIを活用した効率的な分娩監視システムの開発により、24時間人手に頼らず分娩前の乳牛の見守りを可能にし、分娩時期を予測・特定して分娩事故の発生件数を低減させることを目的としています。

分娩データと現状の課題

現在の酪農現場では、分娩監視は主に人の目視に頼っており、介助のタイミングが早すぎたり遅すぎたりすることで事故が発生するケースが少なくありません。特に夜間の分娩では、適切なタイミングでの介助が難しく、難産による母牛や子牛の死亡リスクが高まります。

本研究では、牛舎に設置したカメラから得られる映像データを分析し、分娩前の特徴的な行動パターン(横臥・起立の繰り返し、尾の挙上、落ち着きのなさなど)を機械学習によって検出することで、分娩の兆候を早期に発見するシステムの開発を進めています。

システムの特徴と効果

開発中のシステムでは、以下の特徴と効果が期待されています:

  • 24時間自動監視による酪農家の労働負担軽減
  • AIによる分娩兆候の早期検出と通知機能
  • 分娩時の異常検知による適切なタイミングでの介助実現
  • データの蓄積による予測精度の継続的な向上
  • 分娩事故の減少による経済的損失の低減
  • 子牛の生存率向上による生産性の向上

システム適用後は、カメラとAIによる監視で分娩兆候を早期に検知し、適切なタイミングで酪農家に通知することで、効率的かつ効果的な介助が可能となります。これにより、分娩事故の発生率を大幅に低減させることが期待されています。

研究の進捗と今後の展望

現在、宮崎大学住吉フィールドの協力のもと、実際の牛舎環境でのデータ収集と分析を進めています。分娩前の行動パターンの特徴抽出と機械学習モデルの構築に成功し、初期段階での検証では高い精度で分娩兆候を検出できることが確認されています。

今後は、より多くのデータを収集してモデルの精度向上を図るとともに、実際の酪農現場での実証実験を行い、システムの実用性と効果を検証していく予定です。また、クラウドシステムとの連携により、スマートフォンやタブレットでの遠隔監視機能の実装も計画しています。

将来的には、このシステムを全国の酪農家に普及させることで、日本の酪農業の労働環境改善と生産性向上に貢献することを目指しています。