研究内容

私たちの研究グループでは、「ウイルスと宿主の相互作用の解明」を中心テーマに掲げ、基礎から応用にわたる幅広い研究を展開しています。ウイルスは目に見えない小さな存在でありながら、宿主の免疫応答や生理機能、さらには種間バリアを乗り越える巧妙な戦略を持っています。これらのメカニズムを分子レベルで解明することは、感染症の予防・診断・治療法開発に直結するだけでなく、生命科学全体において極めて重要な知見を提供します。当研究室では、獣医学と分子ウイルス学を融合させた独自のアプローチで、人獣共通感染症ウイルスを中心に研究を進めています。

現在、猫のB型肝炎ウイルス(DCHBV)、HIV-1やサル指向性HIV-1、ジカウイルス(ZIKV)、ベネズエラ馬脳炎ウイルス(VEEV)、SFTSウイルスなど、多岐にわたるウイルスを対象としています。これらの研究には、ゲノム編集技術(CRISPR/Cas9)、次世代シーケンシング(NGS)、リバースジェネティクス、レポーターウイルスシステム、マウスや霊長類を用いた感染モデルなど、最先端の技術を活用しています。特にDCHBVでは、日本国内での遺伝的多様性や感染経路、肝がんとの関連性を解明し、獣医療の発展に貢献しています。HIV-1研究では、サル指向性HIV-1の構築を通じて宿主特異性や免疫応答の差異を解析し、将来的なワクチンや治療法開発に向けた基盤研究を推進しています。ZIKV研究では、AG129マウスとレポーターウイルスを用いた小頭症モデルを確立し、胎児脳発達障害の原因解明に取り組んでいます。また、ウイルス分離効率向上のための新規動物細胞株の樹立など、応用研究にも積極的に取り組んでいます。これらの技術開発は、現場での診断精度向上、感染症制御、迅速な治療法評価に直結します。

当研究室は、国内の取り組みにとどまらず、国際的な共同研究にも力を入れています。特に、イギリス、フランス、インドネシア、台湾の大学や研究機関と連携し、それぞれの地域におけるウイルス感染症の特性や地域性を考慮した共同研究を推進しています。イギリスやフランスとは、HIVやDCHBVの分子機構解析および新規治療戦略の共同開発を進めています。インドネシアとは、家畜感染症ウイルスの監視や制御技術の開発、さらに現地でのフィールドワークを通じた疫学研究を展開しています。台湾との共同研究では、DCHBVの流行状況の把握や、新たな診断法の確立に取り組んでいます。これらの国際共同研究を通して、異なる視点や技術を共有しながら、世界的な感染症対策に貢献しています。

さらに、若手研究者の育成も当研究室の重要な使命の一つです。国際共同研究プロジェクトや海外研修の機会を積極的に提供し、グローバルな視野を持つ研究者を育てています。多様なバックグラウンドを持つ学生や研究者が集まり、自由な発想と協調性を大切にしながら、それぞれの専門性を活かして活発な議論と共同作業を行っています。

未知のウイルスに挑戦し、世界の健康と安全を守るための研究を共に進めたいという熱意を持った方の参加を歓迎します。当研究室で培われる知識や技術は、学術的な発展だけでなく、社会全体への大きな貢献につながると信じています。皆さまの参加を心よりお待ちしています。