宮崎大学へ
河野研究室 KONO Laboratory
HOME
NEWS
教員
研究業績
学会発表
スタッフ
機器&動物
アクセス/問合せ
LINK
研究内容 (Research)

魚類における免疫リズムの研究

微生物から脊椎動物に至るまで、生物体内には「概日リズム」を形成する機構が備わっています。一般には「生物時計」として知られており、この働きによって、体内環境を外的環境に同調させ、
1日を約24時間周期に保っています。概日リズムを調整する体内分子は「時計遺伝子」と呼ばれ、リズムの調整はもとより、様々な生理機構を制御することが知られています。近年、時計遺伝子によるリズム発振機構が詳細に解析されBmal1, Clock, Cry, Per, RORなどの時計遺伝子は、互いの転写を制御し合うことでリズミカルに発現しており (1) 、これが生物時計の源であることが証明されました。本制御メカニズムに関する研究「生物時計を生み出す遺伝子機構の発見」に対し、ノーベル生理学・医学賞 (2017) が授与されたことは記憶に新しいところです。哺乳類における近年の研究では、概日リズムをもって活動する時計遺伝子が免疫系遺伝子の転写調節領域 (E-box / RRE) に直接結合し、その発現をリズミックに制御することが明らかにされています  (J. Mol. Biol., 432, 3700, 2020) 。また、時計遺伝子は免疫細胞の活性化にも関与しており、病原体やアレルゲンへの応答は時間帯によって異なることが知られています (Front. Immunol., 11, 1237, 2020) さらに、病原体の感染には概日リズムが存在し、感染時刻によって疾患の重篤化や死亡率に違いが見られることが報告されています (Nat. Commun., 10, 4107, 2019) 。直近の研究では、ワクチンなどの免疫増強剤の投与タイミングの違いによって、その後誘導される免疫反応や免疫分子の産生量が異なることも明らかにされています (Semin. Immunopathol., 44, 193, 2022)


一方、「魚類の概日リズムに関する研究」は、成熟や産卵リズムなどの繁殖生理 (Comp. Biochem. Physiol., 254, 110907, 2021) 、摂餌行動や内分泌機構の制御 (J. Comp. Physiol., 187, 1057, 2017) などに関するものが多く、免疫の概日リズム制御に関する研究は非常に乏しい現状です。近年、我々の研究グループは、時計遺伝子 (Bmal1・Clock1) の機能を解析し、免疫応答の調節に働くサイトカイン類 [CC-chemokines, Interleukin (IL)-1beta, Tumor necrosis factor (TNF)-alpha] や、病原体認識に関わるToll様受容体9 (TLR9) などの発現を、リズミックに制御することを明らかにしました。さらに直近の研究では、異なる時刻に病原細菌を魚類に感染させると、その後の生残率に有意な違いが現れることを明らかにしました。本現象は魚類の免疫リズムによるものと考えられますが、細菌学分野においては、口腔細菌や腸内細菌が宿主細胞と相互に作用し、時刻によって細菌叢を変化させることが知られています (Cell, 159, 514, 2014, DNA Res., 24, 261, 2017)。そこで魚類病原細菌の膜表面分子の発現解析を行ったところ、感染関連分子のいくつかに概日リズムが備わっていることを見出しました。これらのことは、感染リズムが「魚類の免疫リズム」と「病原体の感染力のリズム」のクロストークによって織りなされていることを示唆すものと考えられます。そこで我々の研究グループは、「感染における概日リズム現象」がどのように生み出されているのかについて、病原体と宿主の双方から理解することを目指した研究を行っています。将来的には、時刻を意識した感染症対策を確立したいと考えています。