方 針
病理学は、様々な動物疾患を診断し、その病理発生メカニズムを探求する学問です。
当教室では、病理診断と病理学的研究を行っています。
指導方針 ・病理診断や研究活動を通して地域・社会に貢献する(研究、社会貢献)。
     ・社会で活躍できる人材を育成する(教育)。
病理診断
(1)生検(主に犬・猫)
(2)剖検(豚、牛、鶏、野生動物、展示動物、犬、猫)

生検診断は、治療方針の決定や予後の推定に重要な情報を臨床獣医師に提供するものです。
病理診断は、臨床診断の妥当性、治療効果の判定、直接死因の解明、合併症や偶発病変の発見、今後の疾病対策に役立つもので、これらは地域の動物医療を支える仕事になります。
臨床獣医師との連携
 顕微鏡の標本だけでは正しい診断は難しく、画像情報を含めた詳細な臨床情報、サンプル摘出時あるいは解剖時の肉眼所見は、病理診断の精度を上げるためにも極めて重要です。また、生検や剖検症例から新たな研究課題が見つかることもあります。臨床現獣医師の先生方と協力し、予防や治療に役立つ共同研究ができればと思います。標本作製
顕微鏡検査
病理学的研究1:産業動物(豚、牛)の上部気道におけるウイルス動態と病態解析
 呼吸器疾患は子豚や子牛の死因の中で最も多く、生存しても削痩や発育不良に陥るため、飼育成績悪化の大きな要因になります。豚呼吸器複合感染症は、豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルスをはじめ、豚サーコウイルスⅡ型、豚呼吸器コロナウイルスなどのウイルスの他、各種細菌の複合感染により重篤な病態を引き起こします。
 ヒトとマウスでは鼻咽頭関連リンパ組織(Nasopharynx Associated Lymphoid Tissue : NALT)が感染初期における生体防御に重要な役割を担っていると考えられています。NALTには、樹状細胞や、T細胞、B細胞などすべての免疫担当細胞が集結することで、粘膜組織に侵入するウイルスや細菌に対する防御免疫システムを構築しています。NALTを覆う上皮層は特殊に分化しており、そこには外来抗原の取り込みを専門に行うMicrofold細胞(M細胞)が存在し、粘膜免疫システムにおける抗原門戸細胞として機能しています。
 多くのウイルスや細菌が呼吸器を介して感染することを考えると、侵入部位となる鼻咽頭粘膜におけるウイルス動態と病態解析は極めて重要です。しかし、呼吸器病の研究は肺病変に主眼が置かれており、NALTを含む鼻咽頭の病態解析が全く進展していません。その原因として、鼻咽腔が鼻骨や頭蓋骨に囲まれているため、骨や採材によるアーチファクトで通常の組織学的検索が困難であること、酸などを用いて骨を脱灰した場合には、各種抗原の消失により免疫組織学法で検出できないことが挙げられます。これらが研究者にとって高い障壁になっています。我々はこれらの難題を解決する新たな採材法を確立し、当該分野において先行的研究ができるようになりました。
 
病理学的研究2:SFTS(重症熱性血小板減少症候群)発症猫の病理学的解析
SFTSは2011年に発表されたウイルスによるダニ媒介性感染症です。同疾患は人獣共通感染症で、近年感染者数が増加しています。動物での発生事例も増加しており、特に猫では致死率が60%~70%と、人の病態よりも重篤です。こういった状態であるにもかかわらず、直接的な死因はあまりわかっておらず、病理学的知見は不足しています。宮崎県はSFTSの発生地域の一つであり、我々の研究室ではSFTS発症猫およびSFTSウイルス感染疑い動物の病理学的解析を行っています。
脾臓:白脾髄のリンパ壊死(矢頭)
腸間膜リンパ節:芽球様リンパ球
腸間膜リンパ節(左:HE、右:SFTSV抗体を用いたIHC)
下顎リンパ節 in situ hybridization法(左:低倍率、右:高倍率)
半野生馬の死因調査と対策
御崎馬は、半野生状態のままで維持されている学術的に極めて貴重な日本在来種で、宮崎県の重要な観光資源にもなっています。従来、新生子馬の頭数は、満1歳までに2~3割が斃死しながら、年間110頭前後で推移・維持されていました。しかし、新生子馬の死亡率は2019年~2021年にかけて高くなっており、若馬や成馬の死亡も増えました。我々の研究室では2015年以降、御崎馬の死因について調査研究を継続しています。冬季の補助飼料給餌
病理学的研究4:腫瘍に関する病理学的研究