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研究内容

2008/6/9 ありふれた魚の四方山話

岩槻幸雄

1)ハコフグとカンパチの格闘

2)九州のイワナの話




1)ハコフグとカンパチの格闘

太陽のエネルギーが私の背中にヒシヒシと伝わってくる平成2年8月の残暑の厳しい夕方、私は宮崎県延岡市赤水にある宮崎大学農学部付属水産実験所にて1年生の臨海実習に来ていました。赤水漁協の防波堤の先端で学生達に釣りの実習を行い、殆どの学生たちがメジナ、ヒラアジの仲間、クロサギ、ベラ等の何らかの魚を釣り、そろそろ終わろうかと多くの学生たちが実験所のほうへ今日釣った色とりどりの海の魚達の話をしながらゾロゾロと歩き出していた。


私は、学生達が帰るのを見届けるために防波堤の先端で居残っていた。海面を見るとテトラポットの間を黄色いチョウチョウウオの仲間が泳いでいるのが見え、どの魚種かなと注視していると、テトラの外側に動くものが目の視野の中に突然飛び込んできた。何だろうとそちらのほうを見ると、ハコフグであった。今まで見たこともないようなスピードで一瞬の内に目の視野の右から左に泳ぎ去り、よく見ると更に早いスピードで何やらブリの仲間らしい魚がハコフグの後ろから攻撃を加えているのが見えた。ハコフグは、泳ぐのをやめ同じ場所で胸鰭、尾鰭を小刻みに動かし左周りに回転始めた。ハコフグは全長20 cmは軽く超えるかなり大きなハコフグであった。

ハコフグの前方には、一度攻撃を加えたブリが反転し、ハコフグから1.5mから2m位離れたところでまた反転しハコフグめがけて突進した。ブリは、何度も攻撃をハコフグに加えていた。私は呆気に取られてみていると、ハコフグは、7-8回と攻撃を加えられながらもブリのいる方向に絶えず方向修正し、最初は応戦していたが、後はブリが攻撃後行った方向に左まわりまたは右回りに何度も同じ場所で回転して、ブリの攻撃に成すすべもないといった感じであった。そこから逃げ出す暇もないほど何度も攻撃を加えられる度に、右に左に微調整しながらただ回転していた。全くの受け身の状態ではあるが、決して尻は向けなかった。更によくみるとブリは、吻から目を通り背鰭基部に向かう斜めに走るバンドが2本みえ、全長30cm位のカンパチであることが分かった。カンパチの攻撃は執拗で、約3分くらい続いたかと思う。その後、カンパチはそこから立ち去ったが、ハコフグは今までの攻撃のために呆然としているようで、カンパチが泳ぎさった方向に頭を向けてただじっとしていた。10秒か、15秒くらい経ってか、ようやく我に返ったようで、ゆっくりとハコフグも沖合いの方に向いたかと思うと一瞬の内に表層から海底の方に消え去った。

2)九州のイワナの話

 東京大学の大島正満博士が日本のイワナの分類や分布を明らかにしたのは、わずか45年前の1961年のことであった。そこには、四国と九州にはイワナは分布しないとされている。その後のイワナの出版物には、必ずこのことが記されている。私もこれが真実と受け止めていた。ある時九州に?川の上流にイワナがいると聞いたとき、「誰かが放流したな」としか頭に浮かばなかった。何の興味も持たなかった。

しばらくして宮崎県庁の獣医師の工藤氏からその川のイワナについて大正14年(1925)の本にイワナのことが書かれていると聞いて、すぐさま驚いた。イハナの類(マウンテントラウトの一種)がたくさんいると本当に書かれていた。九州ではエノハ(ヤマメ)と呼ばれているヤマメとは区別して書かれている。うーん、本当かも知れない。

大島(1961)年より遙か昔である。何か胸騒ぎを覚えた。元々イワナ・ヤマメ釣りが高じて魚類研究者になったので、確かめてみる価値はあると判断した。すぐさま同僚の延東 真氏と捕獲隊を結成し、突撃した。

本当にイワナがいたのである。朱赤点の強いイワナであった。もし本当ならイワナ属の最南限の個体群となる(現在奈良県が南限)。が、すぐさま地元の釣り師や情報を集めてみると、確かに昭和30年頃からいたという確かな情報も得たが、一方噂だが、老ご夫婦が昭和35-36年頃の大雨の後、イワナが極端に減ったのを憂いて、どこからかイワナを得て放流していたという噂を聞いてしまった。参ってしまった。

これはやっかい。はたして、私が確認したイワナ(下記の写真)は、昔からいたイワナなのか、その放流された子孫なのか、はたまた、その放流されたものとの雑種の子孫なのか、そのどれかも全くわからない。これらを証明しないと、昔からいたとはとてもいえないなと思うと、ガッカリして落ち込んでしまった。しかし、5-6cmの当歳の稚魚から大型の30cmは簡単に超える個体まで確認したので、明らかにこの上流部で繁殖していることは疑いようはなかった。形態からせめてみようと4型(アメマス、ニッコウイワナ、ヤマトイワナ、ゴギ)を考慮して、朱赤点の強いイワナであると判断したので、単純にヤマトイワナだろうと考えた。一応この個体群について学問的に報告しておく必要があろうと1993年に農学部研究報告に英文で報告しておいた。いずれ、DNA解析が容易になれば、真相が明らかに出来るかもしれないと、とりあえず, これ以上の突っ込みはおいておいた。本当のイワナちゃん、研究再開まで生きててね。



文献:百渓碌郎太 1925 祖母獄 秀英社 東京、95pp.

 


 
 
 
 
宮崎大学農学部 宮崎大学農学部生物環境科学科 水産科学講座