見えない粒子を捉え、見えなかった世界を明らかにする
X線、ガンマ線、中性子、ミュオン——これらの放射線や粒子は、私たちの目には見えませんが、物質の内側を「透視」する力を持っています。
ただし、それを科学や技術に活かすためには、「何がどこに何個来たのか」を精度よく記録できる検出器(センサ)と、そのデータをリアルタイムで処理するシステムが欠かせません。
武田研究室では、半導体センサの設計・評価から、読み出し回路、FPGAによる信号処理、データ解析まで、計測システムの全工程を手がけています。基礎から応用まで、複数の研究テーマが有機的につながっています。
テーマ一覧
テーマ1 | SOIPIXセンサの開発
半導体で「粒子を見る」センサをつくる
X線、ミュオン、中性子など放射線を検出するためのカスタム半導体センサを設計・評価しています。使用しているのは、Silicon-On-Insulator(SOI)技術を用いた「SOIPIXセンサ」です。
SOIPIXは、信号を検出する部分と読み出し回路が一枚のシリコン基板上に集積された先進的な構造を持ちます。高感度・低ノイズで動作するこのセンサは、リチウムイオン電池の非破壊検査や宇宙からの地球超高層大気観測など、幅広い場面での活躍が期待されています。
宮崎大学はSOIPIXの設計・評価を担う中心的な拠点として活動しており、高エネルギー加速器研究機構(KEK)・東京大学・京都大学など国内外の研究機関と連携して開発を進めています。

テーマ2 | ミュオン特性X線でリチウムイオン電池を見る
宇宙から降ってくる粒子が、電池の未来を変える
現在、ミュオンという粒子を使ったリチウムイオン電池の非破壊検査技術が注目されています。ミュオンは宇宙線が大気と衝突するときに生まれる素粒子で、今この瞬間も手のひらほどの面積を毎秒1個ほど降り注いでいます。ただし、宇宙線ミュオンは強度が低すぎるため検査には使えません。実際の計測では、加速器で生成した高強度のミュオンビームを電池に照射します。これにより、電池を分解することなく内部を詳しく調べることができます。
なぜミュオンが使えるのか?
通常の特性X線(電子が原子に当たって放出するX線)でリチウムを検出しようとすると、エネルギーが低すぎて電池の外まで届きません。ところが、ミュオンは電子の「兄弟」にあたる粒子でありながら、質量が約200倍もあります。重い分だけ放出するX線のエネルギーも大きく(約200倍)、厚い電池を突き抜けて外に出てきます。
これにより、電池内部でのリチウムの偏り(析出)や、セパレータの内部短絡を、電池を分解することなく検出できます。電気自動車(EV)の普及とともにリチウムイオン電池の品質・安全検査の需要は急速に高まっており、ミュオン特性X線はその有力な手法として国内外から注目されています。
武田研究室では、このミュオン特性X線を検出する半導体検出器と読み出しシステム(カメラ)の開発を担っています(JST 経済安全保障重要技術育成プログラム [2024〜2029年度])。
テーマ3 | パルス中性子イメージング
X線では見えない「軽い元素」を写し出す
X線は電子と相互作用するため、鉄や銅などの重い元素の内部構造を見るのが得意ですが、水素・炭素・リチウムといった軽い元素は苦手です。中性子は原子核と直接相互作用し、元素ごとに感度が異なります。重い元素だけでなく軽い元素にも高い感度を持てるため、X線では見えにくい水素やリチウムの検出に特に有効です。透過力が高く、厚い試料でも内部を調べられる点も大きな強みです。
なぜパルス中性子を使うのか?
パルス(短いバースト)状に発生させた中性子を試料に当て、通り抜けてきた中性子が検出器に届くまでの時間を計測します(飛行時間法:ToF)。飛行時間からエネルギー(波長)が分かるため、波長ごとに異なるイメージングが可能になります。元素の空間分布だけでなく、結晶構造の分布や材料内部の残留応力まで画像化できます — X線やミュオンとはまた異なる情報が得られる技術です。
武田研究室では、半導体検出器を用いてこの技術の高解像度化に取り組んでいます。リチウムイオン電池内の元素分布の可視化など、材料研究への応用が期待される分野です。
テーマ4 | SUIM — 宮崎大学のカメラが宇宙へ
学生たちが作ったカメラが、国際宇宙ステーションへ
SUIM(Soipix for observing Upper atmosphere as ISS experiment Mission)は、国際宇宙ステーション(ISS)の外部プラットフォーム(MISSE)に搭載し、高度約100 kmの熱圏をX線で観測するプロジェクトです。近畿大学と共同で進める計画で、武田研究室はSOIPIXを搭載したカメラの開発の大部分を担当しました。
2026年打上げ予定、軌道上運用期間は約6ヶ月。
観測の仕組み
宇宙には、銀河や銀河外天体から飛んでくるX線(宇宙X線背景放射)が満ちています。このX線は地球の大気を通過する際に吸収・散乱されます。ISSから地平線方向の大気を観測し、そのX線の減衰を測ることで大気密度を推定できます — いわば「大気のX線レントゲン撮影」です。気候変動や宇宙天気の理解につながる観測が期待されています。
また、SOIPIXセンサにとって今回が初の宇宙実証となります。宇宙放射線環境下でのセンサ性能データは、将来のX線カメラ開発にとって重要な知見です。
このプロジェクトのもう一つの大きな価値は、研究室の学生たちが「本物の宇宙機器」の開発に携わった経験にあります。設計、組み立て、環境試験——装置が宇宙で正常に動作する瞬間を目指して開発に取り組んだ経験は、他ではなかなか得られないものです。
詳細は [近畿大学 SUIMプロジェクトページ] をご覧ください。
テーマ5 | Edge AI計測カメラ
センサとAIが融合した、次世代の計測装置
AIによる画像認識や異常検知は、近年急速に進歩しています。ただし、従来の手法では計測データをクラウドやサーバーに送り、そこで処理して結果を返す——というステップが必要です。通信の遅延やネットワーク環境への依存は、リアルタイム性が求められる現場では大きな課題になります。
「Edge AI」とは、センサや機器のすぐそば(エッジ)で処理を完結させる考え方です。データを外に送らずに、その場で瞬時に判断できます。
武田研究室では、X線やガンマ線を検出するセンサと、FPGA上で動くリアルタイムAI処理を組み合わせた「Edge AI計測カメラ」の開発を進めています。検出データからその場で核種・元素を推定するなど、現場でのリアルタイム分析が求められる非破壊検査や放射線モニタリングへの活用を目指しています。

科研費・外部資金
研究室では、競争的資金を継続的に獲得しながら研究を推進しています。詳細は[業績ページ]をご覧ください。
連携機関
東京大学・京都大学・近畿大学・東京理科大学・東京科学大学・広島大学・東京都立産業技術高等専門学校・仙台高等専門学校・高エネルギー加速器研究機構(KEK)・企業(複数社)ほか