鳥巣研究班の産学連携

栄養療法

栄養療法とは

最近では、犬猫に対する栄養療法の意識も高まりつつありますが、私が10年以上前に栄養療法の話をしたときは、多くの先生がなかなか理解してくれない治療法でした。一般的に獣医業界の食事治療といえば、大手フード会社が製品化された食事を与えることでした。当然、大手フード会社もいい加減なフードを作っているわけではありません。研究に研究を重ねた上で、新製品を世に送り出しているので、非常に良いフードがたくさんあります。しかし、それは各症例の病態に本当に最適なのか?それを検証するために必要な知識を我々獣医師が果たして持っているのか?と問われると持っていないのです。獣医師が学ぶ栄養学は、フード会社が提供してくれる情報を頼りに学ぶため、フード会社の思想に合わない考え方は学べないのです。私は、数多くのCPSS患者と向き合うことで、栄養の重要性に気がつきました。そして独学で栄養学を学び、気がつけば約20年が立ちました。そこで、私が独学で学んで臨床例で実証してきた臨床栄養学をしっかりと体系づけることを今の使命と思い、研究を始めています。

*食事療法と栄養療法は、あえて使い分けています。私がやっている栄養療法は、各疾患の病態とデータに合わせて食事の成分を調整する治療法です。すなわちテーラーメイド治療となります。

栄養補助食品「Vercure」

Vercure(ヴェルキュア)とは、野菜を特殊技術で低温粉砕した動物用栄養補助食品です。この栄養補助食品を開発した目的は、私が長年肝疾患や消化器疾患の栄養治療で必要だと感じた栄養成分をまとめて豊富に補うためです。本製品は、肝臓用(Liv.)と消化器用(Bow.)そしてエキゾチック用(Exo.)の3種類があり、それぞれ特徴があります。本稿では、肝臓用と消化器用に関して解説します。

肝臓用の栄養補助食品(Vercure Liv.)

肝細胞は日々、色々な酸化ストレスによって障害を受けます。医学領域でも各種抗酸化物質の投与によってALTなどの肝酵素の改善が得られているとの報告があるように抗酸化物質の投与は、少なからず肝障害の症例に対しては良い影響があると考えられます。野菜には、非常に多くの抗酸化物質が含まれていることが知られています。したがって、多くの抗酸化物質を含むVercure Liv.の投与は、肝障害に対応できると考えられます。

またVercure Liv.の最大の特徴は、BCAA(分岐鎖アミノ酸)と水様性食物線維の強化があげられます。BCAAは、肝機能が低下したときに低下するアミノ酸として代表的なアミノ酸ですが、このBCAAを補充することで、アンモニアの代謝が改善し、タンパク質代謝も改善することが期待されます。したがって、肝障害や肝機能低下症例には、BCAAの補充は非常に有用となります。また、肝機能が低下したり閉塞性黄疸で胆汁が消化管内に排泄されないと、消化管環境が悪化します。消化管環境の悪化は、アンモニアを産生するウレアーゼ産生菌の増加を引き起こし、肝臓で処理できなくなったアンモニアは全身に波及して肝性脳症などの神経疾患を悪化させる可能性があります。以上の事から、肝臓用の栄養補助食品として、Vercure Liv.を作成し、臨床的に使用しています。

消化器用の栄養補助食品(Vercure Bow.)

一般的に日常臨床で比較的多く認められる消化器疾患にIBDやリンパ管拡張症によるタンパク漏出性腸症などがあります。IBDなどの腸炎では、消化管の絨毛に炎症細胞の浸潤が起こり、腸絨毛が短縮することが知られています。腸絨毛が萎縮し、短縮すると絨毛の表面積は少なくなり消化管での栄養吸収に障害が出ます。したがって消化管の治療をするうえで腸の炎症をコントロールすることは非常に重要となります。しかし、一般的な抗炎症治療薬であるステロイドには、腸の炎症を抑える作用はありますが、消化管の粘膜増殖作用は認められていません。水様性食物線維は、高分子と低分子に分類され、高分子水様性食物線維は、消化管内細菌によって分解され、酪酸になります。酪酸は、消化管内で強力な抗炎症物質として働き、また腸粘膜増殖作用があることが知られています。そこで、Vercure Bow.には、この水様性食物線維が適切な配合で含まれています。また腸の中で発芽し増殖して酪酸を発生する酪酸菌を入れる事で、消化管内環境が悪いときでも酪酸が効率よく産生でき、消化管環境を改善するのに役立ちます。また、グルタミン酸を配合することで、腸粘膜バリアを健常に保つことが期待されています。実際マウスなどの実験では、グルタミン酸を食事中に添加することで、NSIDsによる胃腸粘膜障害が軽減することが明らかとなっています。

また、低分子水溶性食物繊維はグルコースや脂質の吸収抑制作用があると報告されています。糖尿病の患者や脂質代謝異状によって引き起こされた脂肪肝症例においては、低分子食物線維が有用である可能性が考えられます。

鳥巣研究班

宮崎大学農学部獣医学科 動物病院研究室 鳥巣研究班 鳥巣至道
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