鳥巣研究班の研究・診療

研究

犬猫の肝疾患の研究

先天性門脈体循環シャントの結紮後発作症候群の病態研究

先天性門脈体循環シャント(CPSS)を中心として、学生時代から数多くのCPSSの症例を診てきました。本疾患は、先天性疾患であり外科手術により完治が目指せる疾患です。手術成績を向上させたいという思いで研究テーマもCPSS中心とした研究が多くなっています。私の大学院生時代の研究テーマがまさにこの研究です。

肝肺症候群の病態メカニズムの研究

金子泰之先生のドクター論文のテーマでした。肝疾患、特に閉塞性黄疸の症例で術後に呼吸状態が悪い症例に何例か遭遇しました。そこで、肝疾患と肺疾患(呼吸器疾患に関連があるかも?との疑問がわき、色々論文を調べていると、医学領域では、肝肺症候群という症候群があり、肝疾患と肺疾患に関連性があることが分かっていました。しかし、当然ながら肝肺症候群という概念すら獣医学領域にはなく、まずは肝疾患でどの程度呼吸器が障害を受けているかを評価することから研究を始めました。この件に関しては、卒業生の小林先生と金子先生が精力的に研究を進めてくれて、論文2本が仕上がりました。

胆嚢疾患の病態に関する研究

胆嚢疾患の原因は、未だに分かっていません。しかし、胆泥症と一般的に教科書に書かれていますが、胆泥症の中身の成分を調査した報告は1本も存在しませんでした。一般的に胆泥症という疾患と胆嚢粘液嚢腫も別の疾患と認識されていましたが、私は胆泥症と胆嚢粘液嚢腫は一連の疾患であると疑っていました。そこで、胆泥症の泥の成分と胆嚢粘液嚢腫の内容物を地道に長い年月をかけて集めて分析を繰り返しました。その結果、胆泥症と胆嚢粘液嚢腫の中身はどちらもムチンであるという現象を突き止めました。本研究を進めてくれたのが水谷真也先生です。

診療

肝胆膵疾患

肝胆膵疾患は、鳥巣が最も得意とする診療分野です。

  • 門脈体循環シャントを疑った場合は、事前に富士フィルムモノリスの胆管スクリーニング1という検査を行ってから、ご連絡いただけると助かります。
  • 胆嚢疾患は、黄疸が出ているか否かが非常に重要なポイントになります。T-Bilが0.5mg/dl以上ある場合は、紹介状にはっきりと記載していただけると、なるべく早急な対応を行います。
  • インスリノーマや門脈シャントで低血糖がある場合も、速やかに対応いたします。
  • 膵疾患でも外科適応になる場合があります。諦めずにご紹介ください。
  • 先天性門脈体循環シャント
  • 後天性門脈体循環シャント
  • 原発性門脈低形成
  • 慢性肝炎・肝硬変
  • 謎の肝酵素上昇
  • 肝臓腫瘍
  • 胆嚢粘液嚢腫
  • 胆泥症
  • 胆石症
  • 急性膵炎
  • 慢性膵炎
  • インスリノーマ
  • その他の膵臓腫瘍

消化器疾患

消化器疾患も幅広く対応しております。

難治性の嘔吐、難治性の下痢など一般的な対応で難しい場合は、ご紹介ください。
病態に合わせた治療を行います。特に栄養療法は、鳥巣が得意とする治療法です。
症例の病態に合わせて、手作り食のレシピを提供します。我々が行う手作り食は、非常に栄養バランスの偏った治療用の食事内容になります。病態が改善した状態で、塩分制限の解除やタンパク質の投与量の変更など細かな注意点があります。完全に手作り食だけで栄養管理するには、ある程度の栄養学的知識が必要となりますので、手作り食だけで管理したい患者さんや獣医師の先生方は、注意してください。

内視鏡検査や腹腔鏡下消化管全層生検も実施しています。検査だけご希望で治療は自分で行いたい先生がいらっしゃいましたら、事前にお知らせください。適宜対応いたします。

  • 難治性嘔吐
  • 難治性下痢
  • IBD
  • リンパ管拡張症
  • 消化器型リンパ腫
  • 消化器腫瘍(胃癌、小腸腺癌、大腸癌、GIST、リンパ腫など)

軟部外科

軟部外科は、全般的に対応しております。
特に肝臓腫瘍や先天性門脈シャントの外科に関しては、かなり専門的に研究も行っています。

肝臓外科(肝臓腫瘍)

肝臓の腫瘍は、犬は原発性腫瘍では肝細胞癌の発生率が非常に高いです。 肝臓腫瘍は、放置しておくと、巨大化し腹部臓器を圧迫し食欲などが低下したり、腹腔内で腫瘍が裂けて腹腔内出血を起こすことがあります。 したがって、肝臓腫瘍は孤立性であれば、基本的に外科摘出が適応になります。 ただし、発生部位によっては、後大静脈を巻き込んでいることがあり、摘出が困難な事もあります。果敢に手術を行っても、術後の合併症で亡くなる症例もいます。したがって、なるべく早期に発見し、手術することが重要となります。
現在、宮崎大学では超音波造影によって肝臓腫瘍の良悪の判断を行っています。内科系の中村先生が その分野のスペシャリストなので、中村先生とコラボしながら診断治療を行っています。

また、発見が肝臓腫瘍に関しては、近年新しいアプローチによる肝臓腫瘍の治療戦略を行っています。 従来の手術方法では、摘出が困難とされていた部位に対しても積極的に手術を行っています。

先天性門脈体循環シャント(CPSS)

CPSSは、肝外シャントと肝内シャントに分けられます。CPSSの手術件数と手術成績は全国有数の数と成績を誇っていると自負しています。

肝外シャント この数年で、CPSSの外科治療の方法は、更に進化しております。肝外シャントは、特に傷が小さな手術として腹腔鏡手術を導入しています。
肝内シャント 肝内シャントの手術も複数回に分割した手術で、完治を目指しています。

胆嚢摘出術

胆嚢摘出術に関しては、周術期の管理も含めてこの5年でかなり洗練されてきたと考えています。特に、周術期の胆道造影検査やその合併症に関してもいち早く学会で報告し、より安全な手術が行えるように日々努力を行っています。
また、胆嚢摘出術に関しては、腹腔鏡手術が適応になることもあります。

副腎腫瘍

副腎腫瘍は、近年超音波診断装置の発展と共に比較的発見されやすい腫瘍の1つと言えます。
臨床症状の有無も重要ですが、副腎サイズも非常に重要になります。
副腎腫瘍は、血管内浸潤を起こす症例も存在するため、術前診断が非常に重要となります。術前に血管浸潤がない症例では、腹腔鏡手術が適応になることがあります。
血管浸潤している症例でも、状況に応じては手術適応になることがあります。諦めずにご相談ください。

会陰ヘルニア

会陰ヘルニアは、未去勢の雄犬に多く発生する疾患で、放置すると排便障害のみならず膀胱が反転して排尿障害を引き起こす事もあります。
鳥巣が用いている術式は、麻布大学の渡邊俊文先生が考案された術式で、ポリプロピレンのメッシュを用いる方法です。
一般的な術式で再発した場合でも行える術式です。

消化管腫瘍

消化管腫瘍は、腺癌、平滑筋肉腫、平滑筋腫、GIST(消化管間質腫瘍)、リンパ腫、肥満細胞腫などの腫瘍が認められます。どの腫瘍でも腸閉塞や消化管の穿孔が認められる場合は、緊急手術が必要となります。緊急手術は、なるべく引き受けるようにしていますので、遠慮無くご連絡ください。

胸部外科

実は、胸部外科もけっこう執刀しています。元々、師匠は鷲巣誠先生(岐阜大学 元教授)ですので、胸部外科はかなり勉強してきました。
特に循環器外科の実験も多く手伝わせていただいた経験もあり、得意な手術分野です。宮崎大学に来てからは、宮崎大学の外科に萩尾光美 元教授がいらしたので、私は胸部外科をほとんどしていませんでしたが、萩尾先生が退官されてからは、私が胸部外科を担当しています。ただし、開心術は私はやりません。開心術に関しては内科系教員の中村先生にお尋ねください。

PDA(動脈管開存症)

PDAは、経過観察する疾患ではないので、発見次第手術を行うようにしています。
私は、イーグルフックを用いて直接PDAの血管を結紮しています。
まずは内科系診療科の中村先生の診察を受けて下さい。

心膜切除

原因不明の心タンポナーデであれば、心膜切除は胸腔鏡で対応可能です。ただし、低体重症例では開胸した方が安全な場合があります。ご相談ください。まずは内科系診療科の中村先生の診察を受けて下さい。

心臓腫瘍

心基部にできた心臓腫瘍であれば、摘出可能な場合があります。まずは内科系診療科の中村先生の診察を受けて下さい。

胸腺腫

胸骨縦切開で対応していますが、小さい腫瘍では胸腔鏡も対応可能なこともあります。

肺葉切除

肺腫瘍、肺気腫などで肺葉切除を行います。肋間開胸で基本的に対応します。

乳び胸

乳び胸は、心膜切除+胸管結紮のみで行うか、心膜切除+胸管結紮+乳び槽の破壊の3つを同時に行うかのどちらかの術式で行っています。動物のサイズにもよりますが、胸腔鏡と腹腔鏡を組み合わせた傷の小さな手術でも行うことができます。

内視鏡外科

腹腔鏡外科は、獣医業界ではまだまだ歴史の浅い分野ですが、私は学生時代(今から約20年前)から実験的に腹腔鏡を行っていました。 現在は、日本小動物内視鏡推進連絡会の世話人と日本獣医内視鏡外科研究会の理事として、内視鏡や腹腔鏡の啓蒙活動を行っています。

九州で腹腔鏡手術を始めようと考えている先生方は、是非見学にいらしてください。
より安全で低侵襲な手術手法を開発することが、今後の獣医療には必要になってくると思います。

検査

原因不明の肝酵素の上昇や肝機能低下症例の精査目的で、肝生検を行うには通常開腹手術が必要でした。腹腔鏡を用いることで、小さな傷でより詳細に腹腔内臓器を観察し、生検をすることができます。

切開創を3~4cmに広げると、消化管の全層生検や腸間膜リンパ節の生検も可能です。

  • 肝生検
  • 膵生検
  • 消化管全層生検

外科(腹腔鏡外科)

腹腔鏡外科手術は、長年温めていた手技ですが、なかなか臨床例では実施できていない手術術式でした。現在、共同研究を行っている東京都の王子ペットクリニックの重本院長と共同で、先天性門脈体循環シャントの腹腔鏡での術式を試行錯誤を繰り返しながら開発してきました。まだまだ改良の余地はありますが、ある程度の術式が安定してきたため、宮崎大学でも腹腔鏡外科手術を導入しております。

腹腔鏡手術のメリットは、傷が小さく動物に優しいだけではなりません。実は、スタッフや学生教育にも非常に良いメリットがあります。これまで、外科手術の本当に重要なところは、術者と助手しか見ることができませんでした。下手をすると、助手さえも一番重要なところは見えないこともあります。麻酔医を現在、どんな手術をしているのかを知り得ることができませんでした。ところが、腹腔鏡手術は、手術室にいるスタッフが全員術者と同じモニターを見ることができるため、今どの様な手技をしているのかをはっきりと見ることができます。これによって、麻酔医は先手先手の麻酔コントロールを行えますし、外回りのスタッフも色々準備ができます。そして何より執刀医の手術手技を見ることができるのです。これは教育効果も非常に高いと考えています。

今後は、人医療と同様に多くの手術手技が腹腔鏡下で行えるようになるかはわかりませんが、少しずつでも動物に優しい医療を提供するために我々が研鑽をする必要があると考えています。

現在、宮崎大学で対応可能な手術は、基本的には以下の手術となります。

  • 先天性PSS(肝外)
  • 副腎腫瘍
  • 膀胱結石
  • 胆嚢摘出術
  • 潜在精巣摘出(犬・牛)
鳥巣研究班

宮崎大学農学部獣医学科 動物病院研究室 鳥巣研究班 鳥巣至道
TEL:0985-58-7286(動物病院受付)

住所:宮崎県宮崎市学園木花台西1-1