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A) 学生が習得すべき技術大項目

15) DNA抽出およびPCRの注意事項

1.プライマー長は何baseにするか?
2.プライマー設計の指針追記
3.PCRトラブルシューチィング(PCRに必要な要素)




1.プライマー長は何baseにするか?
 一般的なプライマー長は18b〜30bが適当ですが、よほどのことがないかぎり20b〜25bあたりにしましょう。あまり短ければ十分なTm値を確保できないし、あまり長ければ非特異的なアニーリングが起こるからです。

2.Tm値は何℃に設定するか?
 55℃〜65℃に設定するのが一般的です。ただし、(13)に書いてあるように増幅産物のTm値が非常に高い場合には高めに設定して、鋳型DNAが1本鎖を保っていられるようにしなければならない場合があります。

3.ターゲット遺伝子のどこに?
 cDNAを増幅する場合、genomic DNAのコンタミによる増幅を避けたいですよね。そんな場合は1つのプライマーがexon-exon junctionに半分ずつまたがるように、あるいは2つのプライマーがintronをまたぐように設計するといいでしょう。ただし、 alternative splicingが知られている場合にはよく検討してください。

4.特異性の高いプライマーは?
 特異性はプライマーがターゲット以外のDNAに結合するかどうかで決まります。それはプライマー全長にわたって完全相補鎖である必要はなく部分的一致でも比較的連続して一致して、結合自由エネルギー(負の値の絶対値)が高ければ、プライマーがターゲット以外に吸着されて、PCRの初期段階での効率を落とします。
 PCRプライミングサイトとして働くためにはプライマーの3'-端が相補的であり、浮いていないことが必要です。逆に言えば、3'-側が十分高い自由エネルギーで結合するならば、5'-側は相補的でなくても有効なプライミングとして働きます。このことから、特異性の高いプライマーを設計するこつとして、5'-側はGC含有率が比較的高く、3'-側はGC含有率が比較的低い部位を選びます。すると、全体が相補的であるようなターゲットのみが有効なプライミングサイトとして働くので、特異性が高くなることが判っています。
 もちろん、GC含有率を極端に偏らせてしまうと、特にゲノムDNAを鋳型にする場合に問題が生じることがあります。3'-側の半分は60-70%、5'-側の半分は40-50%のGC含量になるような場所を選べばよいでしょう。

5.目的に応じて注意する点は?
 シーケンス用のプライマーの場合:プライマーの特に3'側がcloning vectorのsense鎖およびantisense鎖のどちらにも相補的でないことを確かめてください。シーケンス反応はほぼ純粋なテンプレートに対して行うので、ベクターへの非特異的アニーリングはノイズとなります。
 ゲノムDNAを鋳型にする場合には特にリピート配列が含まれないようにすることが重要です。ゲノムの99%を占めるnon-coding領域にはリピート配列がたくさんあり、それにプライマーが弱いながらも吸着されると、ほとんどターゲット配列に有効プライミングを行うプライマー分子がなくなってしまいます。
 クローニングを目的とする場合のPCRでは特にプライマー同士が結合して短い産物が多量にできないようにしてください。これができると、本来の目的の産物のクローニングを邪魔します。そのためには(7)で説明するDuplexが重要な因子です。

6.ヘアピン構造はどのように計算?
 ヘアピン構造は NetPrimer を使えば計算できます。本来はダイナミックプログラミングを用いる方法で自由エネルギー的に最も安定な二次構造を計算しなければなりませんが、5'-端と3'-端が相補的であるかどうかをチェックすることでも代用できます。非常に相補部位が多いヘアピン構造でなければ実際にはPCRの効率をそれほど低下させないからです。

7.プライマー同士のDuplexは?
 2つのプライマー同士の結合は DINAMelt で計算してください。ただし、これはより厳密に計算する必要がある場合があります。それはクローニング用のPCRで、プライマーduplexが全く生じないようなプライマーを設計したい場合です。このためにはバルジやループを許して、プライマー同士がアニーリングをある一定の自由エネルギーを超えて形成するかが問題になります。そうした計算はRNA二次構造計算の二本鎖版のダイナミックプログラミングを行う必要があります。

8.プライマー配列の複雑度
 これまではAAAAやGCGCなどのrun repeatとして扱われてきましたが、より一般的に配列の複雑度として計算することにより、ゲノムなど単調な配列が非常に多く存在する場合にプライマーが非特異的に吸着されてしまうのを防ぐことができます。
複雑度計算は
・Wootton-Federhen complexity
・Entropy
・LZ圧縮性による複雑度
・string kernel計算による複雑度
などがありますが、どれも本質的に同じなのでどれかを計算すればよいでしょう。計算方法はOrlov & Potapov (Nucleic Acid Res, 2004)を参照してください。これらの計算プログラミングについて知りたい方はご相談ください。

9.GC clump って何?
 プライマーの3'-末端の1塩基をGかCにして、最後の塩基が浮いた状態にならないようにすることです。これはPCRの効率をよくします。ただし最後の塩基が5'-・・・GCG-3'のようにG/Cの連続だと、ミスプライミングが起こりやすくなるので注意してください。最後の塩基が浮いていると3'-exonuclease活性を持つPfu polymeraseなどの酵素では末端が切断されてしまいますので、proof reading enzymeを使う場合にはGC clumpを使ったほうがよいでしょう。

10.Genomic DNAとcDNAの区別
 Genomic DNAでは前述の低複雑度配列が多いほか、非常に長い配列なのでPCR初期段階では1本鎖になりにくく、PCRプライマーのアニーリング温度(Tm値)が低すぎると効率が悪くなることに注意が必要です。一方、cDNAではむしろTm値が高くなりすぎないよう注意しましょう。

11.Virtual PCRを行うには?
 あらかじめ設計したプライマー配列でPCRをシミュレートすることができるのを知っていますか? VPCR 2.0というオンラインツールです。ただし、データベースサーチに依存するのでうまくバンドでないことあります。私どもはPCRのシミュレーションを行えるシステムを持っています。

12.Degenerate Primerについて
 ターゲットに相補的でない塩基を含むプライマーをdegenerate primerと呼びます。プライマーの5'-末端に制限酵素認識配列をつけたdegenerate primer設計の際には5'-末端に不対塩基があるからといって、相補的な部分のTm値をあまりに高く設定する必要はありません。むしろ制限酵素配列をはずした状態で理想的なプライマーを設計し、それに制限酵素配列を付加するという考えでよいでしょう。効果的プライミングには3'-側配列のほうがはるかに重要だからです。

13.増幅産物の部位・長さとTm値
 DNA polymeraseの耐熱性(半減期)はDiffenbach, Dveksler: PCR Primer - A Laboratory Manual (2nd Ed) p. 151参照。

14.内部コントロールのプライマー
 Duplex PCRのように内部コントロールに対するプライマーも混ぜてPCRを行う場合には、複雑度が高くターゲット遺伝子に対するプライマーに干渉しないようなよいプライマーを設計する必要があります。産物(amplicon)のサイズもターゲット遺伝子の産物サイズよりかなり大きくして、内部コントロールの増幅効率を抑えて、dNTPが内部コントロール増幅で消費しつくされないようにする必要があります。

15.偽遺伝子に気をつけろ
 偽遺伝子とはTranspositionにより真の遺伝子が他の場所にコピー挿入され、遺伝子としての機能を失ったものです。なかには近くにあるプロモータによりmRNAとして発現してしまうものもあります。偽遺伝子の場合、イントロンがない状態でゲノム中に存在するので,注意が必要です。偽遺伝子は機能を失っているので変異が入りやすく、これをクローニングしても元の遺伝子の機能が再現できません。

オンラインツール
 PCR primer の設計をオンラインで行えるサイトでよいものは3つあります。
(1) Primer3
(2) GeneFisher
(3) PCR Now です。特に(3)はReal-time PCR primer設計用です
STSに対してin silico PCRを行えるものは
(1) NCBI e-PCR

ためになる本
PCR Primer: A Laboratory Manual  PCRプライマー設計と手技に関するバイブルです。
Nucleic Acids: Structures、Properties, and Functions  Tm値の計算を本格的に学ぶならコレ

参照:http://www.igm.hokudai.ac.jp/crg/PCRprimers.html


2.プライマー設計の指針追記

 効率の良い特異的なプライマーを作成することは、増幅反応の成否を大きく左右する重要な要素である。主な注意事項としては
1.プライマーの長さ
ゲノム中の特定箇所をPCR増幅するには、特定の箇所に特異的にアニールするプライマーを設計しなければならない。動物のゲノムのサイズはおよそ「10の9乗」のオーダーであるから、DNAの4種の塩基(A,T,G,C)の配列の組合わせからすると、「4の17乗」でその大きさを超えるので、プライマーの長さを17塩基以上に設計すると、計算上ではゲノムの特定の配列にのみアニールすることになる。
LA-PCR用として長いプライマーを合成する場合には、高いアニーリング濃度で増幅できるよう、既知配列とのマッチングをよく確認する必要がある。反対に、6-8塩基の短いプライマーやミックスプライマーを用いて低いアニーリング温度で増幅する方法もあり、これはTAIL-PCRのような未知領域の延長などに有効である。
2.相補性
鋳型DNAに正確にアニールさせるためには、プライマーの3'末端の配列は、5'末端に比べより重要である。プライマーが特異領域にのみアニーリングするよう、
Amplify、Primer3、Oligo4.0、GENETYX-Win/Mac などのコンピュータソフトを用いて、PCRシミュレーションを行い確認する。
3'末端の配列はGC含量が50%前後となるほうがよく、また特定塩基やプリン塩基、ピリミジン塩基のポリマーを含む配列は避ける。
逆にプライマーの5'末端は、目的領域の配列との相補性がそれほど問題にならないので、制限酵素認識部位配列や、シークエンス用のM13ユニバーサルプライマー配列を付加することもできる。
3.プライマーダイマーやプライマーの二次構造
2つのプライマーの一部が互いに相補的でないかをチェックする。特に反応初期ではプライマー濃度が相対的に高いので、プライマー同士の対合(プライマーダイマー)が生成しやすい。このプライマーダイマーは電気泳動像でも確認できる。
プライマー内で二次構造をとる塩基配列も、PCR効率が低下するので避けるようにする。二次構造の検索には、GENETYX などのコンピュータソフトが有用である。
4.Tm値
Tm値(melting temperature)値は、二本鎖DNAが熱変成により一本鎖になる温度のことをいう。PCRではプライマーのアニーリング温度を決定する重要な要素である。
Tm値は、簡便法ではアデニンとチミンの塩基が2℃、グアニンとシトシンの塩基が4℃として計算するが、より正確な推定には Nearest-neighbor法などが知られており、上述の各ソフトウェアで計算する。一般にアニーリング温度はこのTm値以下になるように設定するため、対になるプライマーのTm値をほぼ同じにし、かつ、できるだけ高い温度に設定するのがよい。


1.Primer 3
 Q.オンラインでプライマー設計ができるPrimer3(?http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3.cgi?)というものを使えるようにしたいのですが、使い方がさっぱり分かりません。どなたか使い方を教えてください。
 A.とりあえず一番上の大きいboxに配列をいれて、「targets」というところに、{増やしたい領域の最初の塩基","増やしたい長さ}をいれて、(入力した配列の1000bp目から1500bpまでを増やしたいのならば"1000,500")Pick Primersというボタンを押せば使えます。
もし増やしたい長さが150-1000bpの範囲外の場合には、Product Size Rangesのところにその長さ(外側を増やすので少し多めに)の範囲を入力してください。

2.Gene Fisher
PCRプライマーの設計
 GeneFisherとGeneWalkerのサイトを利用したPCR用ユニバーサルプライマーの設計と確認方法の概説。
1.設計元配列の取得
 特定分類群全体で利用可能なユニバーサルプライマーの設計には設計元の配列が必要。まずは何という遺伝子の領域を使うかを決める。これには、対象分類群内でそれなりに系統的に遠そうなゲノムが解読されている種間でゲノム対ゲノムのBLASTを行ったり、過去の研究から当たりを付ける。遺伝子に当たりが付けられない場合はそのまま次へ。
ターゲットとする領域が決まったら、NCBI Taxonomy Browserで対象分類群か、対象分類群を含む上位分類群名を入力して検索→分類群名を選択→右上の「Entrez records」テーブル内にある「Nucleotide」を選択してその分類群の塩基配列データリストを表示させる。検索ボックスに遺伝子名やキーワードを追加して絞り込む。必要なら1000:5000[SLEN]などと入力して配列の長さでも絞り込む(この例では1000〜5000bpに絞り込んでいる)。これを利用すると遺伝子に当たりが付けられなかった場合でも良さげな場所を探しやすい。
リストを十分絞り込むことができたら、「Display」「Show」「Send to」をそれぞれ「GenBank」「最大値」「File」にして配列を根こそぎダウンロードする。BioEditの配列取得機能を使う場合は「File→Retrieve sequences from GenBank or GenPept」で入力ボックスを表示させてから、NCBIのリスト表示を「GI List」「最大値」「Text」にして「全て選択→コピー→BioEditのRetrieve sequences from GenBankボックスに貼り付け」ることでBioEditに配列を取得させることができる(ただしあまり高速ではない)。配列の取得は、日本の場合ゲノムネットのGenBankデータベースから取得すると高速。DBGETの使い方を踏まえてURLを入力すれば一発で大量の配列をダウンロードできる。こちらにDBGETからの配列ダウンロードを補助するCGIを設置してあるので、NCBIのリスト表示を「Brief」「最大値」「Text」にして「全て選択→コピー」し、フォームに貼り付けてsubmitすれば配列を取得できます。
2.コンセンサス配列を用意する
 GeneFisherサイトでもアライメントとコンセンサス配列生成はできるが、データが大きい場合はサーバに負担をかけてしまうので好ましくない。そこで、自前で予めコンセンサス配列を用意してGeneFisherに送ることにする。
まず、対象となる複数の塩基配列をアライメントする。ClustalWなりMAFFTなり好きなものを使えばよい。アライメントが終わったらコンセンサス配列を得る。BioEditなら「Alignment→Create Consensus Sequence」で一発。
3.GeneFisherによるユニバーサルプライマー設計
 コンセンサス配列ができたら、GeneFisherのサイトに送る。FASTA形式でフォームに貼り付けるか配列ファイルを指定する。BioEditなら配列を選択して「Edit→Copy sequences to clipboard (Fasta Format)」。
プライマーデザインパラメータとしては、プライマーの長さ・GC含量・Tm値・PCRプロダクトの長さを指定する。また、3'末端の指定塩基数分のGC含量と末端の塩基も指定できる。以下に推奨設定を記す。
パラメータ 値
Length 18-25bp
GC content 30-60%
Tm 45-60℃
Product Size 500-1500bp
3' length 2bp
3' GC content 50%
End primer with ACGT
これでいくつかのプライマーセットができあがる。
4.GeneWalkerによるプライマーのチェック
 コンセンサス配列の生成に用いた配列のどれかの、プライマーで増幅する範囲をTarget sequenceに貼り付けてFormat。Primer 1と2にはforward側とreverse側のプライマーを貼り付ける。「Primer dimers」「2:ary struct」「Anneal」でそれぞれできそうなプライマーダイマー・二次構造・アニールする箇所の確認ができる。

3.Amplify、Oligo4.0はMac仕様
 Q.論文などに記載されていたPCR primerを自分の研究に流用したいのですが、そのprimerがprimer dimerを形成しやすいかどうかを調べてくれるツールorウェブサイトはないでしょうか?
論文に載っていたprimerをそのまま合成注文したところ、primer dimerが発生してしまい、Real-time PCRなどの繊細な実験では使えないことが何回かありました。
primerの配列を目で見て、3'側に特に相補的な配列がなく、homo, hetero dimerともできなさそうに見えたprimerでも、dimerが形成されてしまい困ってます。
それと、初歩的な質問ですが、primer3などのprimer設計サイトは、dimer形成の可能性なども吟味して候補を示してくれているのでしょうか?
 A.昔はamplifyというソフトを使っていました。Macようですが、http://engels.genetics.wisc.edu/amplify/
あと御存じかも知れませんがhttp://www.yk.rim.or.jp/~aisoai/soft.htmlに何個かリンクがはってあります。
Fast PCRというフリーソフトでprimer3でデザインしたreal-time PCR用primerのprimer dimer形成を評価している論文がありました。適当な検索サイトで「FastPCR」で検索してみてください。
 A.A.私のところはWindowsを使用しているので、Amplifyは使えませんでしたが、教えていただいたリンクサイトにあった“NetPrimer”を試してみました。いま、悩みの種となっているプライマーセットを解析にかけたところ、Tm値がプライマー納品時のデータシートよりかなり高くでました。で、アニール温度を大幅に上げてPCRを行ってみると、ダイマーが消えてきれいなデータが出ました。


参考:http://oshiete1.goo.ne.jp/qa1510222.html
   http://www.fifthdimension.jp/wiki.cgi?page=PCR%A5%D7%A5%E9%A5%A4%A5%DE%A1%BC%A4%CE%C0%DF%B7%D7
   http://www.kenkyuu.net/cgi-biotech/biotechforum.cgi?mode=view;Code=945


3.PCRトラブルシューチィング(PCRに必要な要素)

1.PCRに必要な要素
PCRの操作は簡単ですが、反応は多段階・多基質の複雑な反応です。酵素と基質が適切な濃度や純度で存在していることは大切です。
1.ポリメラーゼ TaqやPfuなど。これが無ければ無反応。
2.鋳型DNA 純度は大丈夫?
3.dNTP 材料が無ければ、ポリメラーゼも仕事がありません。
4.Forward Primer 一応、ストック濃度の確認を。
5.Reverse Primer Fwd同様、濃度の確認。注文するときの向き(5´-の位置)は大丈夫でしたか?

2.その他のチェック
1.ダイマーチェック
自己ダイマーやループ形成、Fwd/Revペアのダイマー形成が起きないかどうか市販のソフトなどでチェックします。
2.プライミング部分の安定性
PCRで用いるポリメラーゼは、プライマーの3'末端で酵素/DNA複合体を形成し、鎖延長を始めます(プライミング)。3'末端の安定性を上げるために3'末端がGCペアであることが好ましいと言われています。
3.マルチクローニングサイト
プライマーが回文配列の多い部分を幅広くカバーしていると、プライマーダイマー形成の可能性が高くなります。どうしてもダイマーが増えてしまう場合は、わざとプライマー濃度を下げるのも手です。

3.プライマーダイマー
PCR反応でのプライマーは鋳型DNAに比べて高濃度に存在するため、配列によってはプライマー同士でアニーリングしてしまいます。安定な二本鎖DNA(プライマーダイマー)が形成してしまうと、そのDNA断片だけが指数関数的に増幅されてしまい、目的のDNA断片が得られません。
1.分子間ダイマー形成
鋳型となる核酸でなく、プライマー分子間でアニールしてしまうと、ポリメラーゼが3'末端にヌクレオチドを繋げ、短い生成物が増幅してしまう。
同じプライマー同士のダイマー形成  FwdプライマーとRevプライマーのダイマー形成  分子内のヘアピンループ形成

この場合、目的のPCR反応に関与出来ない。また、配列によってはポリメラーゼが3'末端に相補ヌクレオチドを繋げてしまい、ループ構造が更に安定化してしまう。

4.PCRのトラブルシューティング
 PCR実験を行う際には、サンプルDNAと共に、ポジティブコントロール(増幅が確実な鋳型DNAの反応系)とネガティブコントロール(鋳型DNAを入れていない反応系)を同時に反応させるのが、トラブルが起きた時の原因究明に役立つ。
1.PCR反応のプラトー
増幅反応は無制限に進行するわけではなく、目的のDNAの増幅は、1サイクルが終了すると2倍ずつ、最初十分なプライマーがある時には指数関数的に増えていくが、徐々に増幅効率が低下し、いずれは「プラトー」と呼ばれる定常状態に入る。
PCR反応がプラトーに達する点は、主にプライマーが完全に消費された状態の時に起こり、この結果ほぼ定量の目的PCR産物が得られることになる。
PCR反応の停止は、このプライマーやdNTPの完全消化以外にも、ポリメラーゼの不活性化や鋳型の過剰状態、非特異的な増幅産物による競合、増幅産物同士のアニーリングなどによっても起こりうる。この場合には薄いバンドしか得られなかったり、バンドが検出されないこともある。
泳動像で確認されるネガティブコントロールのプライマー濃度に対し、各PCR反応液のプライマーが消費されていれば、PCR反応がプラトーに達したことを表し、逆にPCR反応液中に未消費のプライマーが残る場合には、PCR反応が十分行われなかったことを表す。

2.鋳型DNAの過剰
PCR産物がバンドとして確認されるには、特定の長さを持つ特定領域の人口産物が多数合成されていなければならない。これには、鋳型DNAに最初のプライマーがアニールして出来た人口DNAに、再びもう一方のプライマーがアニーリングして伸長した産物、つまり両端がプライマー部位からなる断片が、十分量合成されていなければならない。
ところが、鋳型DNAが極端に過剰な時には、PCR試料中のプライマーバンドが検出されない。これは鋳型DNAにどちらか一方のプライマーがついただけの、長い産物がたくさんできる段階でプライマーが消化されつくしてしまうためで、これでは目的バンドが泳動像で確認できないか、あるいは薄いスメア状のバンドになる。この場合には、抽出DNAを十分希釈して、再度PCRを試みる。

3.複数バンドや不安定なPCR
目的領域以外にプライマーがアニーリングすると、複数のバンドや目的バンド以外の長さをもつバンドが生じる。この場合にはアニーリング温度を高くするか、鋳型DNAの濃度を下げるか、あるいはhot-start法を試みる。それでもうまくいかない場合には、プライマーを設計し直す必要がある。
PCRが不安定な場合には、抽出DNA液の中に阻害物質が含まれていることが多い。過剰なタンパク質が取り除かれずにDNA鎖に付着してPCR阻害物質となることが多いが、その他にDNA抽出の際用いたEDTAやSDS、エタノールなどの試薬が残っていてもPCRを阻害することがある。これらの場合にはDNA精製を別の方法でやり直すとよい結果が得られる。あるいは、PCR促進剤をPCR反応液に添加することで解決することもある。

4.鋳型DNAの不足
PCR法では原理的に数コピーの鋳型DNAがあれば、最終的に十分なPCR産物が得られることになっているが、阻害物質などによって伸長反応が停止し、十分なPCR産物が得られなかった場合には、電気泳動像でPCR産物のバンドが確認できない。このような場合には、このPCR産物を鋳型DNAとしてセカンドPCR(second PCR)を試みると解決することがある。セカンドPCR法では、更に内側に設計したインナープライマー(inner-primer)を用いると、成功率がより高くなる。

5.PCRで増幅しないDNA
ゲノム配列の中にはどうしても増幅しない領域が存在する。これらの配列をみると、強固な二次構造を持っていたり、G/C、あるいはA/Tに富む配列であったりする。G/Cに富む配列の場合にはジメチルスルホキシド(DMSO)をPCR時に添加することによってほとんど解決される。二次構造に富む配列の場合には、hot-start法、あるいはクローニングを行う。

参照:http:/wiki.symplus.co.jp/doku.php/bio/pcr

4. 種判別によく使われる16S rRNA系統解析

1.Intro
16S rRNA系統解析(16S rRNAけいとうかいせき)とは、リボソームの小サブユニットのRNA塩基配列を基にした微生物の進化系統を明らかにする方法の一つである。真核生物の場合は18S rRNAなのでリボソーム小サブユニットrRNA系統解析 ('S'mall 'S'ub 'U'nit-rRNA、SSU-rRNA) と呼ばれることもある。
従来原核生物の分類は細胞の形態、分離の条件、染色法などで行っていたが、こうした表現型の形質では系統樹上の上下関係を説明するには至らなかった。しかしながら、1970年代、チトクローム、フェレドキシン、5S rRNAなどの塩基配列を基にした系統分類が分子生物学の発展とともに徐々に活発化してきた。
遺伝子の一次構造に基づく系統分類は原核生物に対して特に有効であった。カール・ウーズらはリボソーム小サブユニットを構成するRNA、つまり16S rRNAの塩基配列を用いて原核生物の系統分類を行ない、原核生物が真正細菌と古細菌という2つのドメインからなることを証明した(1977年当時はオリゴヌクレオチドカタログ法を用いた)。
現在、16S rRNAを用いた系統解析は系統樹の作成のみならず、任意の環境中における細菌、古細菌の群集構造を網羅することに役立っている。この方法を用いると、分離・培養ができていないが新規の菌が存在することが塩基配列上証明できる(1996年のBarnsによる;メタジェノミクス参照)。

2.16S rRNA塩基配列が系統解析に適している点
1.リボソームという生物の本質に関わる機能を持ったRNAなので配列の保存性が高く、極めて関係の遠い生物同士でも配列の比較が可能である。
2.真核生物、原核生物問わずすべての種に存在し、機能変化に伴う遺伝子の変異がこれからも起きる可能性が極めて少ない。
3.ゲノム内にコピーが複数個存在しても、塩基配列にほとんど差が無い。
4.遺伝子の長さが適当に長く(16S rRNAの場合、1600塩基対程度)、系統解析に十分な情報量を持つ。
5.比較的変異しやすい部位も存在し、近縁な種でも比較が可能である。
6.細胞内に大量に存在し、PCRの開発がなされる以前から塩基配列の比較が可能であった。
7.全生物にわたって完全に保存された部位が三箇所ほど存在し、そうしたプライマー(ユニバーサルプライマー)を設計することにより塩基配列の決定が容易である。
以上の理由から、16S rRNAは微生物のみならず、最近は真核生物の系統分類にも使用されている。 なお、系統樹作成の際は、16S rRNA塩基配列のみならず、ほかの遺伝子も比較して構築していくことが一般的である。

3.実際の用法
16S rRNAを利用する際は、ユニバーサルプライマーを用いてPCRによる増幅を行ない、得られた増幅産物のクローニングした後にシークエンス反応を行う方法が一般的である。ただ、最近はシークエンシング反応を行わなくても群集構造の解析が可能なDGGE(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)、顕微鏡で直接観察できるFISHなどの広い応用範囲がある。かつては、制限酵素を用いたRFLPなどが使用されていたが、現在はDGGEに取って代わられつつある。

4.問題点
16S rRNAクローンを用いた系統解析は、上記の7点に述べたような理由から正確であるとしているが、計算機の機能上昇に伴い16S rRNA以上の情報量を持つ遺伝子を用いている事もある。その一つが23S rRNAであり、この遺伝子を用いて作成した系統樹は極めて正確であるといわれている。
また、ユニバーサルプライマーを用いた群集構造解析は、環境中に存在している16S rRNAをすべて増幅してしまうために、生存個体のみを抽出しているわけではない。つまり、死亡して溶菌したようなRNAの残骸をも増幅しているということである。最近では一般的に弱いとされるRNAは環境中に長時間存在しているのではないかという研究結果も出ている。

5.Yahoo!知恵袋より
 Q.16SrRNAによる系統解析はユニバーサルプライマーを用いてPCRを行うとのことですが、
PCR法はDNAをターゲットにするもので、RNAの場合はRTPCR法になるのではないでしょうか?そもそもリボソームの核酸はRNAだと思うのですが、16SrRNAにもDNAがあるのですか?初歩的な疑問ですが、どなたか教えていただけますか?
 A.16SrRNAによる系統解析は、16SrRNAをPCRで増幅するのではありません。
16SrRNAをコードしている遺伝子(DNA)をPCRで増幅するのです。

 Q.ユニバーサルプライマーって何ですか?普通のプライマーとどう違うのですか?教えてください。
今度実験で、ユニバーサルプライマーを使うそうです。普段使っているプライマーと何が違うのでしょうか?教えてください。
 A.プライマーとは、PCR反応においてポリメラーゼがDNA合成を開始するための足場となる短いDNA配列です。目的によって、プライマーの塩基配列は異なります。
ユニバーサル、「一般的な」の意味のように、ユニバーサルプライマーとは実験において、広く使われているプライマーのことです。例えば、シークエンス反応や16srRNAの検出などですね。
プライマーと一口に言っても、その塩基配列を記しておかないとどういったものわかりません。しかし、「〜〜用のユニバーサルプライマー」といえば、大抵、同じ塩基配列ですので、話も簡単にできますよね?それに、同じ配列ですから、メーカーも大量に合成して、安価で販売も可能といったメリットもあるかと。
普段使っているプライマーとの違いといえば、ユニバーサルプライマーの方が「一般的に、広く使われているプライマー」といった程度の認識で言いかと思います。カタログを見れば、実験毎に「〜〜用」として、配列が表記されているはずです。
 ベクター(プラスミド)からPCR反応をかけるときに使うプライマーのことでDNA配列挿入領域の前後に組み込まれています。通常は遺伝子ごとにプライマーを設計するのでこの部分がユニバーサルといえると思います。
ベクターの設計書を見てみると何のユニバーサルプライマーを使うかわかりますよ。ちなみに、有名どころはT7プライマーですね。http://www.hssnet.co.jp/2/2_3_2_2.html 種類はリンクを載せたので参考にしてみてください。


参照:
http://ja.wikipedia.org/wiki/16S_rRNA%E7%B3%BB%E7%B5%B1%E8%A7%A3%E6%9E%90
http://search.chiebukuro.yahoo.co.jp/search/search.php?flg=3&p=%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%83%90%E3%83%BC%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC




 
 
 
 
宮崎大学農学部 宮崎大学農学部生物環境科学科 水産科学講座