アクアポリン、バイオマーカー、エクソソーム、急性腎障害、多臓器不全、動物の遺伝病 
 


研究分野


獣医薬理学、毒性学、分子獣医学


研究の概要

動物の病気の成り立ちや薬の効き方を分子の言葉で説明する。

研究テーマ

(1) アクアポリンに関する研究

 

アクアポリンとは、脂質で構成される細胞膜に存在し、水の通路となるタンパク質である。1992年にアメリカのAgre博士(2003年ノーベル化学賞を受賞)により最初のアクアポリンが発見されてから研究が進展し、今では哺乳動物においてアクアポリン0(ゼロ)からアクアポリン12までの合計13種類が発見されている。また、アクアポリンの機能異常が病気の発症に関わっていることも解明されてきている。当研究室では、未だにその分子機能や生体における役割が解明されていないアクアポリンを対象として、研究を進めている。

(2) 腎疾患のバイオマーカーに関する研究

 

現在までに、腎疾患の非侵襲的な特異的早期診断法は確立されていない。2004年に、腎上皮細胞に発現している膜タンパク質が、エクソソームと呼ばれる小胞に含まれて尿中に排泄されることが報告された。我々はこのユニークな排泄経路に着眼し、急性腎不全において細胞レベルで早期診断できるバイオマーカーを世界に先駆けて発見した(Am J Physiol 297:F1006, 2009)。現在、他の腎疾患においても細胞レベルで診断できる有用なバイオマーカーを発見できないかと考え、エクソソームを材料に探索研究を行っている。

(3) 急性腎障害および多臓器不全に関する研究

 

急性腎障害は、救急センターに運ばれた患者の重要な死因の1つであり、腎移植患者の3割が移植後に発症する病気でもある。このように死亡率が高い病気であるにも関わらず、急性腎障害の特異的な治療薬は開発されておらず、その発症過程も未だ十分には解明されていない。
急性腎障害を含めて腎疾患においては、腎のみならず、心や肝などにも障害が出る場合がある。逆に心や肝疾患において、腎疾患が発症することも知られている。このように複数の臓器が相互に影響しながら、それぞれの臓器障害が形成されていく疾患を多臓器不全症候群という。多臓器不全症候群については、これまでの疫学調査の結果から、ヒトのみならずネコにおいても相当数が発症していることが考えられている。しかしながら、多臓器不全症候群の分子病態メカニズムは依然として不明のままであり、特異的な治療薬も知られていない。また早期診断できるバイオマーカーも見出されていない。
当研究室では、急性腎障害や多臓器不全の発症過程に基づく新しい治療薬やバイオマーカーを見出すことを最終目標に、モデルを用いて、分子生物学的手法により研究を進めている。

(4) 動物の遺伝病に関する研究

 

動物の中でも、特に牛が発症するチェディアック-東症候群は、20~30年前に南九州で多く発生し問題となった。一方、ネコやブタにおいて多発性嚢胞腎と呼ばれる遺伝性疾患が知られている。しかしながら、これらの遺伝性疾患の発症の分子メカニズムについては不明の点が非常に多い。そこで、これらの遺伝性疾患の原因となるタンパク質の変異がどのようにして病気を発症させるのかなどについて、研究を行っている。