慢性腸症と診断された飼い主様へ

慢性腸症とは

3週間以上下痢や嘔吐など消化器症状が続くこと症候群は慢性腸症と呼ばれます。
慢性腸症は、下記のように分類できます(下図参考)。

  • 食事反応性腸症(FRE)
    食事を変更することで症状が改善する腸症
  • 抗生物質反応性腸症(ARE)
    抗生剤を使用することで症状が改善する腸症
  • 炎症性腸疾患(IBD)
    • 感染症(細菌、寄生虫)、FRE、ARE、腫瘍、膵外分泌不全、内分泌疾患などによる消化器症状を除外する。
    • 内視鏡検査にて腫瘍は認められず、腸粘膜に炎症細胞の浸潤が認められる疾患。
    • ステロイドなどの使用で症状が改善する
  • 腫瘍:消化器型のリンパ腫など
  • 慢性腸症の全体像

慢性腸症の診断はどうするの?

  • 診断は、血液検査、糞便検査などで異常が認められない場合、全身麻酔下での内視鏡下消化管生検か開腹手術下での消化管全層生検で消化管の病理組織検査の結果に基づいて行います。
  • 暫定診断は、臨床症状、血液検査、超音波検査などから暫定的に診断して、試験的治療を行うこともあります。(ステロイドを使用する場合は、基本的には確定診断を得てから使用するようにしています)
  • 腸リンパ管拡張症の暫定診断は、超音波検査で行うことができますが、リンパ管が拡張した原因は消化管の病理組織学的検査を行わないと診断することはできません。
  • 超音波検査 消化管の超音波検査で、腸の粘膜に線状パターンが認められたら、リンパ管拡張症を強く疑います。
    腹水が認められれば、腹水の採取も行い、検査を行うことができます。
  • 内視鏡所見 白いツブツブがリンパ管の拡張しているところです。
    内視鏡生検は、消化管の粘膜しか生検できないので、筋層などに病変がある場合は、内視鏡検査では診断がつかないことがあります。
  • 消化管の全層生検の様子 全層生検は、最も診断精度が高い検査ですが、開腹する必要があること、消化管の内腔の病変が見えないことなどから、内視鏡検査と一長一短があります。
    しかも、重度の低タンパク血症では、全身麻酔や開腹手術のリスクも高くなるため、全ての症例で行えるわけではありません。

慢性腸症のQ&A

治療にはお薬が絶対に必要ですか?

慢性腸症の原因の多くは食事を変更すると改善すると言われていますので、食事を変更することで下痢が治ることもあります。ただし、お薬とは違い、食べ物を変更する治療では治療に時間がかかることが多いですし、その子にあう食事が見つかるまでは、食事を何度も変更することがあります。

診断には内視鏡検査、生検が必要ですか。

腸炎と消化器型のリンパ腫は残念がら内視鏡をしないと診断ができません。炎症と腫瘍は大きくその後のことも変わってくるので内視鏡検査あるいは生検をオススメします。

内視鏡検査は麻酔なしでできますか?

人間と異なり、動物たちはなんでこの検査をしているかはわかりません。そして我慢もできないので、検査には全身麻酔が必要です。麻酔管理は注意深く行っています。

こんな時ご相談ください

市販の食事を色々試しましたが、下痢が治まりません。内視鏡検査で炎症性腸疾患と診断され、ステロイドの投薬も行っていますが、それでも改善しません。もう治療法がないのでしょうか?

市販の消化器用フードを何種類か試しても下痢が改善せず、ステロイドを投与しても改善しない症例の中に手作り食に反応して下痢や消化器症状が改善する症例が比較的多く認められます。宮大の消化器外科・内科外来では、オリジナルの手作り食レシピでこのような症例の治療を行っています。症例の状態にあわせたテーラーメイドの食事治療も行っていますので、ご相談ください。

下痢や嘔吐などの消化器症状がないのに、獣医さんに消化器が悪いと言われました。そんなことってあるのですか?

消化器症状が全く認められない消化器疾患も多く認められます。超音波検査や血液検査で消化器疾患を疑っていると思いますので、大学で精査をさせていただければと思います。

宮崎大学農学部獣医学科 動物病院研究室

住所:宮崎県宮崎市学園木花台西1-1