果樹などの永年作物は,雑種性が強く,播種から開花結実に至るまで長年月を要するため,遺伝解析や育種の推進が困難であり,多大の費用と圃場を要する.半数体は,その染色体を倍加することによって容易に純系個体が得られることから遺伝解析や計画的育種を行う上で極めて有用と考えられる.カンキツ類における半数体は,ナツダイダイ,カラタチおよびクレメンティンなどのいくつかの種で獲得されているが,樹勢が極めて弱く,ほとんど成長しない.そのため,カンキツ類において,半数体の開花結実例はなく,生殖機能に関する情報は全くない.一方,Toolapongら(1996)は,ブンタン品種である‘晩白柚’から雌性配偶子由来の半数体を獲得した.この半数体は,カラタチ台に高接ぎすると旺盛に成長し,発芽7年目にして初めて開花した.そこで,我々はこのブンタン半数体の遺伝的特徴を調査し、倍加半数体を育成した.
- カンキツ類における半数体植物の基礎的情報を得るために,半数体における葉,花,花粉および果実の形態を調査した.また,半数体の倍数性が維持されているかを調査するために,フローサイトメーターにより半数体の葉,花および果実などの様々な器官,組織の倍数性の解析を行った.半数体の葉,花および花粉は,‘晩白柚’と比較して有意に小さく,奇形の花が多く観察された.半数体の花粉稔性について調査した結果,‘晩白柚’と比較して著しく低かったが,わずかながら稔性が認められた.一方,果実は‘晩白柚’と比べ,1/8程度の重さであり,非常に小さくなっていた.また,種子の形成は認められなかった.次に,半数体の葉,花および果実の各器官,組織において,フローサイトメーターで解析した結果,半数体の葉,がく片,花弁,花糸,砂じょう,アルベドおよびフラベドともに相対蛍光強度が‘晩白柚’と比較して半数性を示した.さらに,半数体の幼葉の染色体数を観察した結果,調査したすべての細胞において9本の染色体数が確認された.これらの結果より,この半数体は調査したすべての器官および組織において半数性を維持していることが明らかとなった.(Yahata et al., 2005a, 2011b)
図 ブンタン半数体の花と果実
- 半数体と種々の二倍体カンキツ品種との交雑を行った結果,半数体に二倍体の花粉を授粉した場合では全く着果しなかったが,半数体を花粉親とした場合,4つの交雑組合せにおいて完全種子が得られた.これらの完全種子は正常に発芽し,多くの二倍体実生が得られた.これらの実生は旺盛に成長し,’晩白柚’の形態的特徴である翼葉を有していた.さらに,’清見’と半数体との交雑から得られた1個体の実生について,RAPD分析およびCMA染色による染色体構成を解析したところ,雑種であることが確認された.これらの結果から,本半数体では正常な花粉(n=9)が形成されていることが示唆された.(Yahata et al.,2005b)
図 ブンタン半数体の成長点の染色体(2n=x=9,左)と’清見’×ブンタン半数体の実生のCMA染色した染色体(右)
- ブンタン半数体の雄性配偶子の稔性回復機構や雌性配偶子の形成過程を明らかにするために,半数体の雄性および雌性配偶子における減数分裂について詳細な細胞遺伝学的解析を行い,その形成過程を調査した.半数体の減数分裂過程を調査した結果,半数体は連続した2回の分裂を行っていた.しかしながら,一部の分裂細胞では減数分裂の異常が認められた.第一分裂後期においていくつかの一価染色体が両極に分配されず,赤道面付近に残るものや周りの細胞が第二減数分裂過程にもかかわらず,赤道面に9個の一価染色体が並列し,両極に分裂するものが観察された.さらに,花粉四分子期において,‘晩白柚’では99.3%が四分子であったのに対し,半数体では,一分子から六分子の小胞子型が観察され,二分子が24.7%と,非常に高い頻度で出現していた.一方,雌性器官では,雌ずいの中心部で花柱溝同士が結合しており,花粉管の伸長が阻害されていた.また,雌性配偶子形成では,胚のう母細胞が全く形成されないため,いずれの時期においても正常に発達した胚のうは全く観察されなかった.以上の結果より,ブンタン半数体の雄性および雌性配偶子形成において,雄性配偶子は第一減数分裂中に異常が起こり,すなわちFDRのような退行現象が起こり,半数体の稔性を回復しているものと推測された.また,半数体の雌性不稔の原因として,雌ずい中の花柱溝の異常と胚のう母細胞の無形成によることが明らかとなった.(Yahata et al, 2011a)
図 ブンタン半数体の減数分裂異常
図 ブンタン半数体の雌性配偶子の異常
- ブンタン半数体の新梢にコルヒチン処理を行った結果,処理された新梢の腋芽から多くの細胞キメラ(半数体と二倍体および二倍体と四倍体)が発生した.二倍体と四倍体の細胞キメラをカラタチ台に高接ぎした結果,18本の染色体数を有する完全な二倍体が得られた.この二倍体は半数体と比較して旺盛な成長を示した.また,この二倍体の単位面積あたりの葉重と気孔の大きさを調査したところ,半数体より有意に厚く,大きかった.また,’晩白柚’と同様の値を示した.さらに,RAPD分析とCMA染色による染色体構成の結果より,この二倍体は半数体の倍加半数体であることが確認された.(Yahata et al.,2005c)
図 ブンタン半数体へのコルヒチン処理
- カンキツの倍加半数体に関する基礎的情報を得るために,ブンタン’晩白柚'[C. maxima (Burm.) Merr.]から得た半数体の腋芽へのコルヒチン処理から誘導した倍加半数体植物の形態調査を行った.さらに,倍加半数体の生殖機能を評価するために,二倍体カンキツ品種との正逆交雑を行った.倍加半数体の葉,花および果実は半数体と比較して有意に大きかった.また,倍加半数体は,半数体と比べ,花粉稔性が高く,種子が多かった.倍加半数体と二倍体カンキツ品種との正逆交雑では,両組合せで多くの種子が得られた.これらの種子は正常に発芽し,二倍体であった.これらの結果は,倍加半数体ブンタンが遺伝解析や計画育種のために有用であることが示された.(Yahata et al., 2015)
図 倍加半数体と稔性の回復が確認された花粉
- 1) Yahata, M., S. Harusaki, H. Komatsu, K. Takami, H. Kunitake, T. Yabuya, K. Yamashita and P. Toolapong. 2005. Morphological characterization and molecular verification of a fertile haploid pummelo (Citrus grandis Osbeck). J. Amer. Soc. Hort. Sci. 130:34-40.
- 2) Yahata, M., H. Kurogi, H. Kunitake, K. Nagano, T. Yabuya, K. Yamashita and H. Komatsu. 2005. Evaluation of reproduction functions in a haploid pummelo by crossing with several diploid citrus cultivars. J. Japan. Soc. Hort. Sci. 74:281-288.
- 3) Yahata, M., H. Kunitake, T. Yabuya, K. Yamashita, Y. Kashihara and H. Komatsu. 2005. Production of a doubled haploid from a haploid pummelo using colchicine treatment of axillary shoot buds . J. Amer. Soc. Hort. Sci. 130:899-903.
- 4) Yahata, M., H. Kunitake, K. Yasuda, T. Yabuya, K. Yamashita, H. Komatsu, Morphological characteristics of fruit in a haploid pummel. Bull. Facul. Agric. Univ. Miyazaki, 57:57-61, 2011
- 5) Yahata M., H. Kunitake, K. Yasuda, T. Hirai, T. Yabuya, K. Yamashita, H. Komatsu., Abnormality of gamete formation in a pummelo [Citrus maxima (Burm.) Merr.] haploid. . J Japan Soc Hort Sci., 80(1):14-18 , 2011a
- 6) Yahata, M., H. Kunitake, K. Yasuda, T. Yabuya, K. Yamashita, and H. Komatsu, Morphological characteristics of fruit in a haploid pummel. Bulletin of the Faculty of Agriculture, University of Miyazaki, 57:57-61 , 2011b
- 7) Yahata, M., T. Nukaya, M. Sudo, T. Ohta, K. Yasuda, H. Inagaki, H. Mukai, H. Harada, T. Takagi, H. Komatsu and H. Kunitake,, Morphological characteristics of a doubled haploid pummelo [Citrus maxima (Burm.) Merr. cv. Banpeiyu] and its reproductive function. The Horticulture Journal 84 (1): 30–36. 2015