キイチゴの在来種を利用した育種

ラズベリーやブラックベリーなどのキイチゴは生食だけでなくジャムなどの加工食品としても利用価値が高い小果樹である.日本には40種以上の野生種が自生しているが,それらの健康機能性を含めた果実品質の評価および育種的利用はほとんどなされていない.そこで,本研究では,キイチゴ栽培品種および暖地性野生種について,いくつかの機能性を指標として育種素材の選抜を行い,ラズベリーとナワシロイチゴとの種間雑種を育成した.

  1. 植物材料には,ラズベリー2品種,ブラックベリー2品種および暖地性野生種5種を供試した.まず,総ポリフェノール含量,抗酸化能およびヒト前骨髄性白血病細胞(HL-60)の増殖抑制について評価したところ,ブラックベリー‘Martonthornless’,ナガバモミジイチゴおよびナワシロイチゴの3種が高い値を示した.また,それらの評価項目に関して高い相関が確認され,ポリフェノールが抗酸化能およびHL-60細胞増殖抑制に影響している可能性が示唆された.次に,選抜した3種についてHL-60細胞増殖抑制に寄与する活性成分を同定するために,HPLCおよびLC-MS分析による果実抽出物中の主要なポリフェノールの定性および定量,さらにPorter法によるプロアントシアニジンの定量を行った.その結果,エラジタンニンとプロアントシアニジンが主要なポリフェノールであり,その含量には材料によって差異が観察された.また,それらの抽出画分におけるHL-60細胞増殖抑制試験の結果,それらのポリフェノールが細胞増殖抑制に大きく関与していることが明らかとなった.また,それらの寄与率は材料によって差異が観察され,ナワシロイチゴではエラジタンニンが最も大きく影響している可能性が示唆された.
    HL-60細胞の形態変化DNAラダーの検出
    (細胞密度:1.0×105cells/ml, サンプル濃度:2mg/ml, 3時間処理)
  2. 選抜された暖地性野生種ナワシロイチゴとラズベリー栽培品種との種間交雑を行った.得られた種間雑種のほとんどは,ナワシロイチゴのほふく性の樹姿を示し,樹勢が強く,ラズベリーと同程度の果実の大きさを有するものもあった.特に,IP-1系統はラズベリーよりも果実が有意に大きく,食味が良いという特徴を有し,エラジタンニン含量はラズベリーの約4倍となっていた.
    葉 果実花 花粉
    図 暖地性野生種ナワシロイチゴとラズベリー栽培品種との種間雑種
    図 暖地性野生種ナワシロイチゴとラズベリー栽培品種との種間雑種
  3. 黒ラズベリー(Rubus occidentalis)は北米原産の野生種から改良されたものであるが、日本での栽培利用はまったくなされていない.本研究室では、黒ラズベリー2品種を新たに導入し、宮崎県の気候条件下で栽培が可能であることを確認した.そこで、在来野生種を含めた黒ラズベリーを材料として、成熟果実の成分分析を行った.黒ラズベリーは2品種共に、アントシアニン含量、総ポリフェノール含量および抗酸化活性が他の栽培品種や在来野生種と比較して有意に高いことが明らかになった.また、アントシアニン組成は、黒ラズベリーのみにCyanidin-3-xylosylrutinosideが含まれていることが確認され、黒色果実の特徴的な色素である可能性が高い。さらに、抗酸化能測定では、3手法とも同様な品種間差異が示されたが、FRAP法は、DPPH法やORAC法と比較して、総ポリフェノール含量と相関が高いことが明らかになった。以上のことから、黒ラズベリーの成熟果実は抗酸化能が高く、機能性の高い品種開発の素材として有望であると思われる.
    ラズベリー黒ラズベリーにおいて特有のアントシアニン化合物黒ラズベリーにおいて特有のアントシアニン化合物