ブルーベリー果実を対象とした育種

 日本における果樹産業は,輸入果実の増加,消費者指向の多様化および担い手不足などにより衰退傾向にあるが,ブルーベリー栽培は1980年代から急速に普及し,今日に至るまで栽培面積および果実収穫量ともに増加している.現在,日本のブルーベリー産業を支えているのは主に米国で育種された品種群である.近年,国内のブルーベリー栽培普及に伴い,病害虫による果実の食害や夏季の長期乾燥による株の衰弱等,栽培上の課題が指摘され始めている.また,米国で育成された優良品種が必ずしも国内で高い評価を得ていないという現状がある.これまでに,国内で育成された品種は17品種に過ぎないが,日本にはブルーベリーと近縁のスノキ属植物は19種自生しており,これらのブルーベリー育種および栽培への利用が期待される.
 そこで本研究では,日本産スノキ属植物を利用したブルーベリーの育種を行うための基礎的知見を得ることを目的として,いくつかの試験を実施している.

  1. 日本産スノキ属植物とブルーベリー栽培品種の機能性成分を調査した.その結果,ナツハゼ,シャシャンボおよびラビットアイブルーベリーの総アントシアニン含量に有意な差は認められなかった.一方で,ナツハゼとシャシャンボの総ポリフェノール含量はブルーベリーと比較して高いことが明らかとなった.また,ナツハゼとシャシャンボはブルーベリーと比較してHL-60細胞の増殖抑制効果が高いことが判明した.特に,高い抗酸化能を示したナツハゼはアポトーシスによりHL-60細胞の増殖が強く抑制されたものと推察された.以上の結果,ナツハゼおよびシャシャンボ果実に含まれるアントシアニンを含む総ポリフェノールが高い抗酸化能に寄与しており,それらがHL-60細胞の増殖抑制に関与しているものと推察された.
    図 ナツハゼ(右)とシャシャンボ(左)の成熟果実図 ナツハゼ(右)とシャシャンボ(左)の成熟果実
  2. 日本産スノキ属植物とブルーベリー栽培品種において,多芽体由来シュートを用いた染色体倍加を検討した.オリザリンとコルヒチンを様々な濃度や時間でシュートに処理し,その後5 mg・L-1 zeatinを添加したMW培地で培養した.培養したシュートの腋芽から新たに発生したシュートの倍数性を解析した.染色体倍加個体の誘導率は有糸分裂阻害物質の種類,処理濃度,処理時間および供試した種により異なったが,本処理条件内では,オリザリンの方がコルヒチンより高い値を示した.特に,0.005%・24時間でオリザリン処理を行った場合,北部ハイブッシュブルーベリー‘Berkeley’,スノキ,コケモモおよびクロマメノキにおいてそれぞれ23.3,5.6,40.0および57.8%の染色体倍加個体が得られた.これらの染色体倍加個体は,ラビットアイブルーベリー‘Homebell’台木に接ぎ木した後,順調な生育を示している.以上のように,多芽体由来シュートへのオリザリン処理により,スノキ属植物の染色体倍加個体を効率的に誘導できることが明らかになった.
    図 多芽体を利用したコルヒチンまたはオリザリンによる染色体倍加法 図 多芽体を利用したコルヒチンまたはオリザリンによる染色体倍加法
  3. 四倍体シャシャンボと四倍体ハイブッシュブルーベリー‘Spartan’との交雑により四倍体節間雑種を育成した.また,シャシャンボとブルーベリーの交雑においては,除雄により花粉管伸長が抑制され,完全種子数が減少することが明らかになり,両親の倍数性を揃え,除雄をせずに交配することが雑種獲得の要因になると推察された.さらに,本研究室で開発した幼苗期における低温遭遇時の茎葉色変化を指標とした雑種の早期選抜法は,ブルーベリー育種の効率化を図るうえで有用な手法になると考えられる.また,雑種における形態的特徴,開花期および果実成熟期は両親の中間となり,フローサイトメトリーと染色体観察による倍数性調査の結果,これらの雑種は四倍体であることが明らかとなった.雑種のうち4系統が結実し,このうち2系統は高い花粉染色稔性を示した.また,注目すべきことに雑種のうち2系統は‘Spartan’と比較して高い可溶性固形物含量を示し,全ての雑種系統の果肉はシャシャンボと同様に赤色を呈しアントシアニンの蓄積が確認され,高い総ポリフェノール含量と抗酸化能を示した.これらの雑種は,環境適応性に優れ,高糖度で高い機能性を有する果実を着生し,果実の収穫期間拡大を実現する新しいブルーベリー品種育成のための育種母本として有用と考えられる.
    四倍体シャシャンボと四倍体ハイブッシュブルーベリー‘Spartan’との種間雑種の果実 A:シャシャンボ、B:‘Spartan’、C~F:種間雑種四倍体シャシャンボと四倍体ハイブッシュブルーベリー‘Spartan’との種間雑種の果実
    A:シャシャンボ、B:‘Spartan’、C~F:種間雑種
    図 種間交雑における花粉管の行動図 種間交雑における花粉管の行動
  1. 1)Tetsumura, T., Y. Matsumoto, M. Sato, C. Honsho, K. Yamashita, H. Komatsu, Y. Sugimoto and H. Kunitake. Evaluation of basal medium for micropropagation of four highbush blueberry cultivars. Sci. Hort., 119(10):72-74, 2008
  2. 2)津田浩利・小島祥子・鉄村琢哉・小松春喜・國武久登. オリザリンおよびコルヒチン処理によるスノキ属植物における倍数体の作出. 園芸学研究 ,11:205-212, 2012
  3. 3)山内(佐藤)真希子・津田浩利・荒木啓輔・内田飛香・安田喜一・鉄村琢哉・小松春喜・國武久登. 我が国自生のスノキ属植物とブルーベリー栽培品種における植物組織培養と試験管外発根を利用したクローン増殖. 園芸学研究, 11:13-19, 2012
  4. 4)Tsuda, H., M. Yamasaki, H. Komatsu, K. Yoshioka, H. Kunitake Production of intersectional hybrids between colchicine-induced tetraploid Shashanbo (Vaccinium bracteatum) and Highbush Blueberry ‘Spartan’. Journal of the American Society for Horticultural Science, 138 (4): 317–314, 2013a 
  5. 5)Tsuda, H., H. Kunitake, R. Kawasaki-Takaki, K. Nishiyama, M. Yamasaki, H. Komatsu, C. Yukizaki Antioxidant Activities and Anti-Cancer Cell Proliferation Properties of Natsuhaze (Vaccinium oldhamii), Shashanbo (V. bracteatum Thunb.) and Blueberry Cultivars. Plants, 2 (1): 57–71, 2013b
  6. 6)津田浩利、小島祥子、大坪早貴、小松春喜、國武久登.ブルーベリー近縁種ナツハゼとアラゲナツハゼにおける果実の成熟特性と品質評価.園芸学研究、13(1):1-9、2014
  7. 7)Tsuda, H., H. Kunitake, Y. Aoki, A. Oyama, T. Tetsumura,  Komatsu, K. Yoshioka Efficient in vitro screening for higher soil pH adaptability of intersectional hybrids in blueberry. HortScience 49 (2): 141–144. 2014
  8. 8)執行みさと, 具志堅文, 桂川明広, 臂光昭, 吉岡克則, 鹿毛哲郎, 國武久登, 小松春喜 我が国自生スノキ属野生種クロマメノキとハイブッシュブルーベリー‘ブルークロップ’との節間交雑から得られたF1系統の評価. 園芸学研究 13 (4): 97–106, 2014
  9. 9)執行みさと, 森田恭代, 西村謙一, 井上論司, 國武久登, 小松春喜 クロマメノキとラビットアイブルーベリーT100との節間交雑から得られたF1系統の評価. 園芸学研究, 13 (4): 323–333, 2014