キンカン属植物の系統分類

キンカン属植物は,果皮部が生食できる小さな果実を有するカンキツ類であり,現在日本での需要は広がりつつあるが,その学術的な研究はほとんど行われていない.そのため,キンカン属の分類は未だ混沌としており,また,育種も進んでおらず,キンカン品種の多様性は極めて乏しいのが現状である.そこで本研究では,キンカン属植物における系統分類と育種のための基礎的知見を得るために以下の実験を行った.

  1. キンカン属植物における細胞遺伝学的および進化学的な系統分類の知見を得るために,フローサイトメトリーによるゲノムサイズ分析, CMA核型分析およびRAPDとCAPSマーカーを用いたDNA多型解析に基づいた総合的な評価を行った.その結果,キンカン属の種としては,マメキンカンとナガキンカンコンプレックス(ナガキンカン,マルキンカンおよびニンポウキンカン)の2種のみであり,ナガハキンカンとチョウジュキンカンは,雑種として分類されるべきであることを結論付けた.(Yasuda et al., 2016)
    図 キンカン属植物の染色体のCMA染色像 図 キンカン属植物の染色体のCMA染色像
  2. キンカン属植物6種を品種育成のための遺伝資源として評価するために,葉,花および果実の形態学的特徴と果実における糖・有機酸含量,β-クリプトキサンチン含量およびDPPHラジカル消去能について調査したところ,マメキンカンにおける高いβ-クリプトキサンチン含量やDPPHラジカル消去能,チョウジュキンカン果皮の高い糖含量等が明らかとなり,キンカン属野生種が,特徴的な品種を育成する上で,貴重な形質を有することを示唆した.(Yasuda et al. 2010a)
    図 キンカン属植物の果実形態 A:ナガバキンカン、B:マルキンカン、C:マメキンカン、D:ニンポウキンカン、E:ナガミキンカン、F:フクシュウキンカン

    図 キンカン属植物の果実形態
    A:ナガバキンカン、B:マルキンカン、C:マメキンカン、D:ニンポウキンカン、E:ナガミキンカン、F:フクシュウキンカン

  3. 倍数性周縁キメラ突然変異のキンカン育種への利用の可能性を検討するために,ニンポウキンカン品種‘勇紅’の倍数性と形態的特性について調査した.その結果,‘勇紅’は組織起源層の第Ⅰ層が二倍体,第Ⅱ層と第Ⅲ層が四倍体である倍数性周縁キメラであり,その果実特性は,種子が少なく,厚皮であり,キンカンにとって望ましい形質であった.今後,人為的に倍数性周縁キメラを作出することで,優良なキンカン品種の作出ができるものと期待された.(安田ら,2008)
    図 ニンポウキンカン品種‘勇紅’の倍数性 図 ニンポウキンカン品種‘勇紅’の倍数性
  4. キンカン育種における種間および属間交雑を用いた交雑育種を検討するために,ナガキンカンとその他のキンカン属5種との種間交雑および‘清見’タンゴールとキンカン属6種との属間交雑を行った.ナガキンカンとの種間交雑において,すべての交雑組み合わせから雑種を得ることができた.また,‘清見’タンゴールとの属間交雑では,マルキンカンとマメキンカン以外の組み合わせにおいて,交雑実生を得ることができた.そのうち,‘清見’タンゴールとニンポウキンカンとの交雑から得られた2実生は,非還元雄性配偶子由来の異数体(2n = 28)と三倍体(2n = 3x = 27)の属間雑種であることが確認された.さらに,これらは,雄性不稔と単為結果性による無核果を生産することができ,果実は,果皮を含めて高い糖含量を有していた.(Yasuda et al., 2010b)
    図 ‘清見’タンゴールとニンポウキンカンとの属簡雑種 図 ‘清見’タンゴールとニンポウキンカンとの属簡雑種
  1. 1)安田喜一、國武久登、中川匠子、黒木宏憲、八幡昌紀、平田力也、吉倉幸博、川上郁夫、杉本安寛「ニンポウキンカン‘勇紅’の倍数性周縁キメラの証明とその形態的特性」園芸学研究、7巻2号、165-171頁、2008
  2. 2)Yasuda K., M. Yahata, H. Komatsu and H. Kunitake. Phylogeny and classification of Fortunella (Aurantioideae) inferred from DNA polymorphism. Bulletin of the Faculty of Agriculture, University of Miyazaki, 56:103-110, 2010a 
  3. 3)Yasuda K., M. Yahata, H. Komatsu, Y. Kurogi, and H. Kunitake. Triploid and Aneuploid Hybrids from Diploid-Diploid Intergeneric Crosses between Citrus Cultivar ‘Kiyomi’ Tangor and Meiwa kumquat (Fortunella crassifolia Swingle) for Seedless Breeding of Kumquat. J Japan Soc Hort Sci., 79(2):129-134 , 2010b
  4. 4)Yasuda, K., M. Yahata, M. Shigyo, R. Matsumoto, T. Yabuya and H. Kunitake. Identification of Parental Chromosomes in Sexual Intergeneric Hybrid Progenies between Citrus Cultivar ‘Nanpu’ Tangor and Citropsis schweinfurthii in the Subfamily Aurantioideae. J Japan Soc Hort Sci., 79(1):16-22 , 2010c
  5. 5)Yasuda, K., M. Yahata, H. Kunitake Phylogeny and Classification of Kumquats (Fortunella spp.) Inferred from CMA Karyotype Composition. The Horticulture Journal (in press)

特許関係

  1. 特許第4670038号、特願2004-235136(特開2006-050960)、國武久登・ニンポウキンカン等のミカン科植物における倍数性周縁キメラ植物の作出方法、宮崎大学