ブルーベリー葉の機能性評価とその栽培技術の開発

宮崎県では,産学官連携の新たな研究組織を作り上げ,優秀な若手研究者を育成し,新たな産業に繋げるために,宮崎県産業支援財団を中核機関として,「JST宮崎県地域結集型共同研究事業-食の機能を中心としたがん予防基盤技術創出-(平成16年~20年)」に取り組んだ.この事業は,農学分野と医学分野の研究者が共同して取り組み,「ウイルス感染を背景に発症するがん」を食の機能により予防する,または,治療法を開発するという全国でも珍しいテーマである.JSTの事業終了後も,他のいくつかの事業で継続し,宮崎県産の農作物を網羅的に解析することで,世界ではじめてラビットアイブルーベリー葉の健康機能性を明らかにした.また,葉の大量生産法を確立し,宮崎県独特の釜入り茶製法を応用して,機能性の高いブルーベリー葉茶「ベリーフ」とサプリメント「ベリーフゴールドプラス」を製品化することができた.ここでは,ラビットアイブルーベリー葉茶の製品化までの地域一体となった取り組みについて紹介する.

1. 生物遺伝資源からのブルーベリー葉の選抜

ブルーベリー葉

 宮崎県の生物遺伝資源(非可食部を含む)約1500サンプルの抗酸化活性や総ポリフェノール含量について網羅的に調査した.その結果,ブルーベリー葉,茶およびハーブ類などに特に高い値が示された.抗酸化活性(DPPHラジカル消去活性)は,「お茶」で2170(μmol Trolox equivarent/g dry)であったのに対し,ラビットアイブルーベリー葉は1920と同等であり,このような食品は他にはなかった.また,いくつかのブルーベリー品種を供試して果実と葉の抗酸化活性を比較した.抗酸化活性が高いとされるブルーベリー果実と比較しても,ブルーベリーの葉の抗酸化活性は,すべての品種で約10倍もの値が示されました.さらに,ラビットアイ系の葉の抗酸化活性は北部および南部ハイブッシュ系と比較して統計的にも有意に高いことが明らかとなった.その他にも,C型肝炎ウイルス(CHV)複製抑制活性(特許第4586119号),脂肪肝抑制作用(特許第4568809号),肝がん発生・進展抑制作用(特許第4621855号),および成人T細胞白血病(ATL)細胞,HTLV- I(human T-cell leukemia virus type-I)に対する感染細胞増殖抑制作用(特許第4617418号)もあることを明らかにし,特許化することができた.また,C型肝炎ウイルス複製抑制の活性成分は,「プロアントシアニジン」であることを明らかにした.ラビットアイブルーベリーは米国南部起源の植物であり,宮崎のような温暖な気候に適する栽培種であることから,地域特産物として合致するものだった.

 しかし,ラビットアイブルーベリーは果実については世界中で食経験があるものの,葉についてはほとんど食品として利用されていない.一方でメディカルハーブ広報センターによれば,ブルーベリー葉は安全に摂取できるハーブ(クラスI)として登録されていたが,新たに動物(雄マウスを用いた小核試験,動物による亜急性毒性試験)やヒトでの安全性試験を実施し,葉の安全性を証明した.

2. ブルーベリー葉の効率的生産法の開発

図 ブルーベリー葉の大量生産法図 ブルーベリー葉の大量生産法

ブルーベリー葉を使用した食品を実用化するにあたり,機能性の高い葉を大量に収穫できる技術を開発が重要となった.まず,ラビットアイブルーベリーの果実生産のための栽培法では生産コストが高くなるため,お茶の栽培法を改良して試験した.1年生の挿し木苗を一定の間隔で密植し(約7000本/10a),木質系廃棄物による雑草抑制および水管理を行いながら,定植2年目から収穫を開始できる栽培法を確立した.葉の収穫は通常のお茶収穫機を応用することが可能であり,年2回の収穫を行い,新鮮重で1.5トン以上/10aを実現することができた.また,活性成分であるプロアントシアニジン含量は,春葉では低く,光が強くなる夏にかけて徐々に増加する傾向があった.そこで,春葉は収穫せず,8月以降の成熟葉のみを2回収穫することで品質の高い葉を確保することができるようになった.これまでに初期成長の促進,果実制御,施肥および雑草管理などを工夫し「宮崎県ラビットアイブルーベリー葉栽培指針」を策定し,完全無農薬栽培法による高品質葉大量生産体系を確立した.現在,宮崎ブルーベリー葉栽培連絡協議会を組織し,30件を超える農業法人などにおいて栽培普及が図られている.さらに,宮崎県独自ブランドを確立していくために,ラビットアイブルーベリーの品種間交雑から得られた約150本の実生からプロアントシアニジン含量の高い品種の選抜を行い,世界初の葉専用品種として「くにさと35号」を農林水産省に品種登録した(第23433号).この一連の栽培体系が構築できたことにより,この一連の栽培体系が構築できたことにより,ブルーベリー葉による新たな産業創造に向けて大きく前進した.

マルチシート栽培機械収穫 図 マルチシート栽培と機械収穫

3. 機能性を維持したブルーベリー葉茶の製品化

ブルーベリー葉からお茶を製造するにあたり,機能性を維持した商品をめざすことになった.宮崎県食品開発センターの研究グループの成果によれば,ブルーベリー葉においては,2分間のブランチング処理とその後の80°C,5時間の乾燥を行っても,その抗酸化活性および総ポリフェノール含量がほとんど低下しないことを明らかとなった.また,現場規模での葉乾燥試験,つまり「釜入り製法」「蒸し製法(揉捻あり,揉捻なし)」の3種類の異なる方法で試験製造を試みられた.その結果,さわやかな酸味成分であるキナ酸はほとんど変化がないものの,プロアントシアニジン含量が生葉に比べて乾燥葉において14~36%減少していた.その後の試行錯誤により,釜入り製法を用いることで独特の風味が残り,他の製法と比較して活性成分などを維持しやすいことが明らかになったことから,本製法を採用することになった.一方で,ブルーベリー葉茶はほぼ完成したものの,先の見えない新しい商品であることから地域企業参入の出足は鈍く,製品化が遅れていた.そこで,数名の県内関係者が企業化を検討し,宮崎大学もバックアップすることで,2011年1月宮崎大学発ベンチャー企業「なな葉コーポレーション株式会社(代表取締役社長:亀長浩蔵)(http://www.nanaha-miyazaki.co.jp)」が設立された.さらに,釜入り茶の製法を利用し,ブルーベリー葉茶「ベリーフ」を商品化し,同年4月から販売が開始された.現在,さわやかな酸味のある健康茶として人気が出てきている.

ブブルーベリー葉茶「ベリーフ」サプリメント 図 ブルーベリー葉茶「ベリーフ」とサプリメント

特許

  1. 特許第5712672号、特願2011-040784(特開2011-182790)、國武久登・布施拓市、ブルーベリーの栽培方法、宮崎大学
  2. 特許5177349号、特願2007-61967(特開2008-2202422)、國武久登・鉄村琢哉・佐藤真希子、スノキ属植物の育苗方法、國武久登・鉄村琢哉・佐藤真希子、宮崎大学
  3. 特許第5034097号、特願2007-280503(特開2009-106177)、槐島芳徳・大重貴宏・石井也寸拓・國武久登・杉本安寛・甲斐孝憲、植物の葉の採葉機、宮崎大学
  4. 特許第4617418号、特願2005-203584(特開2007-022929)、甲斐孝憲・平原秀秋・國武久登・山崎正夫・柚木崎千鶴子・小村美穂・赤松絵奈、がん細胞またはがん発症性ウイルス感染細胞の増殖抑制剤、宮崎大学、JST、宮崎県、雲海酒造
  5. 特許第4586119号、特願2005-313995(特開2007-119398)、坪内博仁・宇都浩文・國武久登・甲斐孝憲・平原秀秋・柚木崎千鶴子・小村美穂・赤松絵奈、C型肝炎ウイルス産生抑制材料とその製法、宮崎大学、JST、宮崎県、雲海酒造

農林水産省品種登録

  1. 第13303号・ブルーベリー「レッドパール」・2005年9月
  2. 第13304号・ブルーベリー「オレンジパール」・2005年9月
  3. 第13305号・ブルーベリー「ブルーパール」・2005年9月