花粉の働き

植物の品種改良や食糧生産を効率化するためには、種子を作る仕組み、つまり受精機構を理解することが必要となります。

植物の受精では、オス側の遺伝情報を持つ精細胞とメス側である卵細胞が受精し、さらにもう一つの精細胞が中央細胞と受精します(重複受精)。

植物の精細胞は、動物の精子のように自ら動き回ることが出来ません。花粉は花粉管を伸ばすことで、花粉内部にある精細胞(または精細胞に分裂する前の雄原細胞)を運ぶ道をつくり、卵細胞と中央細胞がある胚珠に精細胞を届けます。

アルストロメリアアルストロメリア
(Alstroemeria aurea)
柱頭で発芽した花粉
(青い部分が花粉管)
目的地である胚珠に花粉管が到着

精細胞の解析に向けた微細操作技術の開発

雌しべの花柱や子房の中を伸長する花粉管、さらにその花粉管内の雄原細胞や精細胞の働きを調査することは困難です。そのために、私達は人工的に花粉を発芽させ花粉管を誘導することで様々な解析を行っています。

さらに、マイクロキャピラリー(非常に細いガラス管)を用いた単細胞操作技術を駆使することで、花粉管内から細胞や核を取り出して、極少数の細胞における解析を行うことが可能となりました。

       花粉管(左)の中から取り出した雄原細胞(右) 

       標的の細胞標的のみ回収マイクロキャピラリーと nL 単位(1 mLの100万分の1)で液を吸うことが出来る装置と組み合わせて細胞を操作

花粉管伸長過程での精細胞形成機構の解析

私達が研究に用いているアルストロメリアやキルタンサスは2細胞性花粉という種類の花粉を持っていて、花粉の成熟時には精細胞を形成しておらず精細胞の元になる雄原細胞を持ち、花粉が花粉管を伸ばす過程で雄原細胞が分裂して精細胞を形成します。

ある種の植物では、一組の精細胞間に形態的および生理的な差異(精細胞の異型化)が存在することが報告されています。私達が用いているキルタンサスにおいても精細胞の異型化が生じることを発見しました。現在、これら異型化した精細胞が重複受精においてどのような機能を果たしているかについて解析を進めています。

将来的には、単離した精細胞を用いた試験管内受精等、遠縁種間における新品種の作出に応用していきたいと考えています。

花粉管内で雄原細胞が分裂し、2つの精細胞を形成
栄養核と結合する精細胞(Svn)と栄養核とは
結合しない精細胞(Sua)の間で異なる微小管
(α-チューブリン、図中の緑色)蓄積を示し、
それに伴う異型化が起こる。 Bar = 50μm.