ランの遺伝資源保存

ラン科植物

ランの仲間(ラン科)は、世界中に幅広く分布して非常に多くの種類が存在します。生活の様式も木や岩に付着して生活する着生ラン、地面に生える地生ラン、また光合成を全くせずに菌との共生で生活する菌従属栄養のランというように、まさに多種多様です。

世界的に見ても、日本国内を見てもラン科植物の多くは、絶滅の恐れのある種、すなわち絶滅危惧種に指定されています。従って、人類の財産として絶滅させることなく保全してゆくこと、また資源として適切な利用を心掛けることが必要です。

地生ラン エビネ
  菌従属栄養植物 クロヤツシロラン
着生ラン デンドロキラム着生ラン デンドロキラム

絶滅危惧種の保全

液体窒素( -196℃)の気相を利用して、
-150℃以下で植物の試料を保存している。

ラン科植物に限らず、野生の動植物を保全する最もよい方法は、生息域内で生態的なネットワークを維持しながら保全することです。国立公園内の特別地域などで維持されています。

すでに個体数が著しく減少していて絶滅の恐れが特に高い生物については、本来の生息域から引き離して保存が行われます。植物であれば、植物園などで植物体として維持される他、種子での保存、組織培養技術を用いた試験管内での保存が行われています。

生息域外での保存方法として、-150℃以下の温度で細胞や組織を保存する「超低温保存法」が現在最も安定な手法と言うことができます。通常、細胞を超低温にすると、細胞内で氷の結晶が成長して細胞構造を壊してしまい常温に戻しても生存することはできません。保存前に様々な処理をすることによって、超低温下でも細胞内で氷が大きく成長しない状態にする必要があります。

超低温保存前には植物細胞を十分に脱水する。超低温保存前には植物細胞を十分に脱水する。脱水に耐えられる細胞を誘導しておくことが必要となる。

ラン科植物の超低温保存

ラン科植物の種子は、一般的な種子のように胚乳などに栄養分を蓄えていないので、発芽に必要な栄養を菌から得ています。ランを人工的に種子から繁殖させる際には、栄養分を加えた培地を使って無菌状態で発芽させます。

ランの中には、完熟種子の無菌播種が困難である(難発芽性)が未熟種子であれば発芽可能なもの、また完熟種子の乾燥・低温条件での保存が困難な種(難貯蔵性)が存在します。私達は、脱水耐性を誘導し、超低温保存法を用いることで、これまで保存できなかった未熟種子の保存法を初めて確立し、また難貯蔵性種子の長期保存が可能であることを始めて明らかにしてきました。

これからも、ラン科植物を含めた絶滅危惧植物の長期保存法の開発を行いたいと考えています。

超低温保存に成功した種熱帯性のランや腐生ランを含めた多くのランで超低温保存は可能である。