オリーブの暖地栽培技術の開発

オリーブは,7,000年以上前から伝統的に栽培され,近年,その栄養的価値への注目度の高まりから,生産量,消費量の増加が著しい.しかし,九州における栽培の歴史は浅く,果実成分に関する知見もほとんど無い.そこで本研究では,南九州地域におけるオリーブの栽培技術を確立するために,雨よけ栽培下での品種の選抜を行い,土壌pHや剪定などの栽培条件を検討し,果実形態や成分などの品質評価を行った.

(細胞密度:1.0×105cells/ml, サンプル濃度:2mg/ml, 3時間処理) (細胞密度:1.0×105cells/ml, サンプル濃度:2mg/ml, 3時間処理)
  1. 材料にはオリーブ栽培品種‘Arbequina’他9品種を供試し,露地および雨よけ栽培を行い,果実不着果の原因と考えられている不完全花の形態的分類を行った.完全な雌雄器官を有する花を完全花とし,不完全花を子房無し花,子房奇形花および柱頭奇形花の3型に分類した.雨よけ栽培では,定植3年目に5品種で開花結実が確認されたが,露地栽培では着花すら観察されなかった.これは雨よけによる温度や降水量などの環境条件の変化が,早期開花や受粉機会の改善による結実を促したことが示唆された.また,‘Arbequina’は完全花率が67.5%と他品種に比べ有意に高く,着果レベルも高い値を示したことから,早期から収穫できる有望な品種として選抜した.さらに,選抜した‘Arbequina’を含め,着果レベルの高い3品種の1年生苗木を用い,土壌pHと剪定処理について検討した.その結果,土壌pH7.8-8.2区の完全花率はすべての品種で40%以上となり,対照区より有意に高かった.また,剪定処理の完全花率はすべての品種で約45%であり,非剪定処理区と比較して着果レベルが高かった.以上のように,土壌pHの制御や剪定処理が正常な花芽形成を促進する可能性があることが示唆された.
    図 オリーブの正常花の断面図図 オリーブの正常花の断面図
    図 オリーブの不完全花図 オリーブの不完全花
  2. 雨よけ栽培により生産された‘Arbequina’他3品種の果実を供試し,ガスクロマトグラフ(GC-2014)を用いて果実含油の構成成分を分析した.‘Arbequina’では,オレイン酸59.6%,パルミチン酸12.6%,その他10種類の脂肪酸を検出した.露地栽培(福岡産)で生産された果実と比較して,血中LDLコレステロールの低下への関与が報告されているオレイン酸は雨よけ栽培で生産された3品種が有意に高い含有量を示した.さらに,近赤外分析装置(SpectraStar2400)を用いた果実分析を行ったところ,‘Arbequina’において,オレイン酸60.7%,パルミチン酸12.9%となり,前述したガスクロマトグラフによる測定と類似した値となった.この装置は短時間で果実品質の評価を行うことができ,高度な分析が困難な栽培現場において,高い利用価値があると考えられた.