カンキツの細胞融合による育種

 植物の細胞融合から得られる体細胞雑種は,倍数体,生殖稔性の低下および奇形などの発現が原因で育種への利用が少なくなっている.しかしながら,カンキツ類においては雑種細胞の選抜が比較的容易なことから,珠心胚や雌雄性不稔等の育種障壁の克服手段として細胞融合が用いられ,現在までに500例以上の体細胞雑種が獲得されている(Grosser・Gmitter,2010).本研究グループでは‘ショウグン’マンダリンとグレープフルーツの電気細胞融合により三倍体体細胞雑種SG1を獲得し(Kunitakeら,2002),栽培を継続したところ開花結実に至った.そこで本研究では,体細胞雑種SG1の遺伝学的および形態的評価を行った.

 SG1のRAPDおよびCAPS分析を行ったところ,雑種性が確認され,細胞質DNAについては ‘ショウグン’マンダリンを持っている可能性が高いことが明らかとなった.また,FCM解析によりSG1および両親品種についてゲノムサイズを調査したところSG1は三倍体のピークを示し,ゲノムサイズの比較から SG1は‘ショウグン’マンダリン1ゲノムとグレープフルーツ2ゲノムの染色体構成であることが推測された.SG1の花と葉の調査を行った結果,‘ショウグン’マンダリンよりも有意に大きく発芽稔性は2.5%と有意に低くなっていた.卓上電子顕微鏡による花粉の調査を行ったところ,奇形した花粉が多く観察され三倍体の特徴が示された.次に,SG1の果実は‘ショウグン’マンダリンと比較して果皮が厚く(12.6mm),薄黄色を呈し,扁平形であり,果実重は約600gと有意に大きかった.市販の‘オロブランコ’は約380gであったことから大果系と考えられた.また,完全種子はまったくなく不完全種子も2.8/果であり,開花した時の環境を考慮すると単為結果性を有する可能性が示唆された.糖酸分析の結果,SG1は市販の‘オロブランコ’と比較するとやや糖度や酸度が低く,栽培方法を改善する必要が考えられた.以上のように,三倍体体細胞雑種SG1は無核等の興味深い形質が示され,今後栽培方法などの試験を行っていく予定である.(Kunitake et al. , 2002)

図 ‘ショウグン’マンダリンとグレープフルーツの三倍体体細胞雑種図 ‘ショウグン’マンダリンとグレープフルーツの三倍体体細胞雑種 図 ‘ショウグン’マンダリンとグレープフルーツの三倍体体細胞雑種のゲノム構成図 ‘ショウグン’マンダリンとグレープフルーツの三倍体体細胞雑種のゲノム構成
  1. 1)Takami, K., A. Matsumaru, M. Yahata, H. Kunitake and H. Komatsu: Utilization of intergeneric somatic hybrids as an index discriminating taxa in the genus Citrus and its related species. Sexual Plant Reproduction, 18:21-28 , 2005
  2. 2)Takami, K., A. Matsumaru, M. Yahata, H. Kunitake and H. Komatsu: Production of intergeneric somatic hybrids between round kumquat (Fortunella japonica Swingle) and Morita navel orange (Citrus sinensis Osb.). Plant Cell Reports, 23:39-45, 2004
  3. 3)Kunitake, H., A. Matsumaru, K. Takami, H. Komatsu:Molecular and cytogenetic characterization of triploid somatic hybrids between Shougun mandarin and Grapefruit, Plant Biotech, 19(5):345-352 , 2002 
  4. 4)Kunitake, H., H. Kagami and M. Mii: Plant regeneration from protoplasts of ‘satsuma’mandarin (Citrus unshiu). Japan Agricultural Research Quarterly, 24(4):287-291, 1991